リレーコラムについて

もうこんな日になってた

小西利行

佐倉さんから、リレーコレムの話が来た時に、ちょっと困った。
なぜなら、今週は、ロケウイークで、日本の真裏にいるからだ。

でも、素敵(でちょっと強面)な先輩からのお話なので、
もちろん「やりまーす!」と、可愛い後輩を演じつつ、引き受けた。

ちょっと甘かった。

いま僕がいる場所は、チリ。
サンチアゴというチリ最大の都市へのフライとは、
トランジットも合わせれば33時間。丸3日の長旅だ。

とにかくとにかくとにかく長かった。
そのあいだ、たくさんコラム書いたり、仕事したりするぞ!
と思っていたのだが、正直に言えば、全くといっていいほど何もできなかった。
飛行機とうやつは、人から仕事意欲をなくす乗り物だと思う。

乗った途端に・・・「映画見るしかないよ・・・」と語り始め、
徐々に「寝るしかないよ・・・」と語りかけてくる。
そしてワインなんかに手を出させて、
いつの間にか睡魔というのを送り込んでくる。

なので僕はいままで飛行機で仕事できたことがない。
寝てるか、映画見てるかだ。

ああ、怖い乗り物だ。

でもかく言う僕は、実は、飛行機が大好きだ。
意外かもしれないが、就職時はパイロット志望で、
日本系の飛行機会社を3社受けた。(その時は痩せていた)
そして、最終面接のひとつ手前にある健康診断ですべて落ちた。

なんでもスポーツ心臓というのらしかった。
水泳をずっとやっていたせいで、一度の心臓の鼓動が大きく、
そのぶん回数が少ないので(これはスポーツにはいいことらしい)、
気圧が減ると気を失う危険性があるということだった・・・

水泳をやっていたことが、そんな落とし穴につながるとは思ってもみなかったので、正直、その時はショックで落ち込んだけれど、
いまはそのおかげで、こうしてチリでコラムを書いている。

人生は、なんだかわからないものだといつも思う。

僕には友人がいた。
それは飛行機のパイロット試験で出会った友人だ。
彼はとても優秀で、20人で一人しか受からない試験に
僕の代わりに(と僕は思ってるが本当は彼が優秀すぎたので)合格した。

で、僕が広告代理店に入った時にもお互いのことをよく話をしていた。
パイロットテストの厳しさや、広告界の厳しさなんか話しつつ、
よくお酒を飲んでいた。

彼がアメリカのナパにパイロって訓練に向かうときも、お酒を飲んで、
がんばってこい!オレの代わりに!なんて話していた。

そして彼は、パイロット訓練中、交通事故で亡くなった。
休暇でロスに向かおうとしてた彼の車に、車が突っ込んだと聞いた。
彼に過失はなく、本当に不幸な事故だったと。

こうしてコラムを書いている間に、彼のことを思い出した。

飛行機じゃ仕事できない!
チリは遠くて厳しい!

なんて書いてる僕に、甘いこというなと言ってる気がする。
生きていて、やりたいことをやってるんだろうと言われてる気がする。
彼に対する感情はここでサラリと書けるほど
そんな簡単なもんじゃないけど、そう思った。

彼は僕の代わりにパイロットに受かった。
そしても僕はこうしてコピーライターの仕事をしてる。

僕は、それがどういうことか、時々思い出して、考えて、仕事を続けてる。

2012.04.12 @ チリ

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