ブルース的
ボクはたまに宴会芸でブルースを唄います。
あるとき日本人がB・B・キングにこう尋ねました。
「日本人にもブルースが唄えるんでしょうか?」
彼は静かな笑みをたたえながらこうこたえました。
「あなたは悲しいと感じたことがあるでしょう。
つまり誰にでもブルースは唄えるのです」
これはずいぶんまえのハナシですが、ある夕暮れ時、
荻窪発の西武バスに乗って発車を待っていたボクは
どこからともなく聞こえてきた鼻歌に耳をうばわれ
ました。というのもその歌声がやや年輩の女性の声
であり、その旋律があきらかにブルーノートを含んだ
ある種のブルースだったからです。
ボクはその声の発信地が車内であること、それも
ボクの席からそんなに離れていないことをすぐに
理解しましたが、そちらに顔をふりむけることは
しませんでした。正確に言うとふりむける勇気を
持ち合わせていなかった、というべきでしょう。
いずれにしてもそのとき、あたりの風景が荻窪では
なく、夕陽に暮れなずむアメリカ南部の田園地帯と
一挙に化し、ブルースな一日が暮れていったのでした。