リレーコラムについて

愛をこめて昔話を

小林智拡

掃除・洗濯。
ゴミ出し。
買い出し。
米とぎ。
包丁とぎ。
皿洗い。

料理人の見習いの話ではありません。
僕がコピーライターの
見習いだった頃の日課です。
後輩が入社してくるまでの3年間、
毎日つづきました。

14年前。
僕が「中野直樹広告事務所 東京」に
中途入社した当初は、わずか5人の、
家族のような会社でした。
一般のマンションを事務所として
利用しているため、キッチンも充実。
毎日のように先輩ADが腕をふるい、
昼ごはんを作ってくれるのです。
その下ごしらえと後片付けが、
下っぱの僕と同期のデザイナーの仕事。

ビジュアル命のADですから、
料理の見栄えにもこだわります。
とにかく皿数が多い。
必然的に洗い物も増えるわけで。
梅干しひと粒が小皿にのって
出てきたときは、
さすがに文句のひとつも
言いたくなったものです。
洗った皿の枚数なら、おそらく僕が
日本一のコピーライターだと思います。

いま思えば、
中野直樹広告事務所との出逢いは
とても運命的なものでした。

大学を出て、カタログ・チラシの
制作会社に勤めていた僕は、
マス広告づくりへの強い憧れを
捨て切れずにいました。

そんなとき、目に止まったのが

『一流広告代理店のマス広告のみ!』

と書かれた求人広告。
なんと強気なメッセージでしょう。
僕の心を見透かしたようなコピーです。
渡りに船とばかりに、すぐさま応募しました。

面接へ行って、さらに心を揺さぶられました。
会議室の壁に

『トラの仇は、ウマで討つ。』

というキャッチのJRAのポスターが
貼ってあるではありませんか!
阪神ファンであり、
競馬ファンでもある僕はもう、武者震い。
ここでお世話になるしかない!
と勝手に心に誓ったのを覚えています。

そんな2本のコピーが、
僕のコピーライター人生を動かし始めました。
そこでの広告まみれの5年間があり、
運よく30才でTCC新人賞を
いただくことができました。

いまはADKにいるけれど、
コピーに悩んだり、飽きたり、疲れたりすると、
中野事務所時代に
はじめてコピーをほめられた日のことや、
はじめてコピーが雑誌に掲載された
日のことを思い出します。
すると、あら不思議。
どんなに無茶なクライアントの宿題を前にしても、
とても幸せな仕事に思えてくるのです。

一週間、おつきあいいただきまして
ありがとうございました。
140文字のつぶやきでさえ躊躇してしまう僕にとって、
コラム×5日間は、果てしなく長距離でした。
つぎの走者は、電通ヤング&ルビカムの葛西洋介さんです。
新婚ほやほやの、およよ!なコラムにご期待ください。
では、葛西さんよろしくです!

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