Fくん
Fくんとは、10歳のときからの幼馴染です。
小、中といっしょで、大学、社会人になっても
ときどき会っては遊んでいました。
Fくんは昔からずっとミスチルが大好きでした。
誰もリクエストしてないのに、
絶妙に似ていない桜井さんのものまねを
交えながら歌いあげるその姿を見て
「やっぱFはバカだな―」と
みんなにからかわれていたものです。
歌以外でも何かと空周りが多く、
そのたびにみんなから笑われていたのですが、
Fくんはそんなときも
ずっとにこにこ笑っているのです。
中学生の頃だったと思います。
そんなFくんにとって、
とてもつらい出来事がありました。
元気でいられるはずがない。
けれどそのとき、
Fくんはいつものように笑いながら
僕にこう言いました。
「おれバカだからすぐ忘れちゃうみたい」
今でもあの、周囲を思いやる優しさに
満ちた笑顔を忘れることはできません。
バカやっているときの笑顔も
そんな彼の優しさからできていたのだと、
そのときはじめて気がつきました。
こっちの方がバカでした。
あれから20年近くたった今も、
Fくんは身長以外、何一つ変わっていません。
彼の心は中学生のときのままで、
今でも誰もリクエストしていない
シーソーゲームを
いい笑顔で熱唱してくれます。
あの頃へ行きたくなると、
僕はFくんに会いに行きます。
彼は僕のかけがえのない
タイムマシーンです。