バースの贈り物
納健太郎
関西人としてのひとつの自慢。
それは「バースの○○をナマで見たことがある」です。
忘れもしない1985年、
タイガースが最後に日本一になった年。
セリーグ優勝も決まったあとの、シーズン最後の阪神巨人戦でした。
消化試合であるそのゲームへの関心は、ひとりの選手に
集まっていました。
それまで54本のホームランをかっ飛ばしていた
ランディ・バースが、当時、巨人軍監督でもあった、
王貞治の日本記録55本を抜くかどうか!?
それだけが注目の一戦だったのです。
巨人のピッチャーたちは当然のように、毎打席バースを
四球で歩かせました。こういう個人記録やタイトルが
かかったときの四球攻めって批判を受けがちですが、
そういう大人の事情を見せられるのもまぁ嫌いじゃないです。
で、その日何度目かの四球で一塁へ歩かされたバース。
「あ~あ」5万人のため息がこぼれました。
でもそれはすぐに大歓声に変わります。
次の掛布の打席のとき、バースは突然2塁へ向かって
全力疾走を始めたんです。
ドドドドドッ!
まったく虚をつかれた巨人バッテリーは二塁送球さえできず、
まんまとセーフ。
鬱憤がたまりにたまっていた甲子園も大興奮に包まれました。
世にも珍しいバースの盗塁。
そう、バースは盗んでいきました。
2塁ベースとともに観客の心を。(カリオストロの城か)
そこで終わればよかったんですが、
バースにも関西人の血が流れていたんでしょう。
調子に乗って2塁上で大きくリードをとりすぎ、
あっさり牽制球で刺されてしまいました。
テヘぺロな表情を浮かべて1塁ベンチに戻ってくるバースを、
我らタイガースファンはスタンディング・オベーションで
迎えました。
その年の僕はひまでひまで、何度も甲子園に足を運んだのですが、
なぜかバースのホームランの記憶は一本も残っておらず、
鮮明に残っているのは、盗塁に成功してドヤ顔で2塁ベースに
立つ姿です。
いま考えるとあの盗塁は、
ホームランを楽しみに観に来てくれたお客さんへの
バースからのプレゼントだったんでしょうか。
…と、話を無理やりクリスマスっぽくしてみました。
でもバースって、サンタクロースにも似てるでしょ。
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