スヌーピー最強説
納健太郎
昔住んでた家をふと訪ねたくなること、ありませんか。
僕もこの春、何かに呼ばれるように、
大学時代にいた京都の下宿を見に行ってきました。
離れの四畳一間。風呂なし、キッチンなし、電話なし。
1Kや1ルームでもない、ただの“1”。
家賃も1万円ぽっきりでした。
あれから30年も経ってるし、
そもそも建物自体残ってるかどうか不安だったんですが、
行ってみたら見事に当時のまんま建っていました。
21世紀の今でも、こんなベタな昭和の生活を送る
学生がいるんですね。
さらに、きゅんときたこと。
ここに住み始めてまだ友だちが一人もいなかった頃、
なんか寂しくて窓に貼ったスヌーピーのステッカーが、
そのままにっこり残ってたんです。
でもふつう、誰か剥がすでしょ。自然にはがれてもいい年月です、30年って。
僕がここを出てから少なくとも10人は学生が入れ替わってるはずなのに、
なんで誰ひとり剥がさんかったんやろ?
剥がそうとした者はみな高熱に襲われる、
“呪いのスヌーピー”みたいな伝説があったのか。
ステッカーの粘着力が異常に強かったのか。
やっぱり“スヌーピー”だからだと思います。
たとえばそれが当時流行ってた“なめ猫”のステッカーだったら。
やがて古臭くなり、4年後には影も形もなかったでしょう。
同じ犬キャラでも“フランダースの犬”だったら、
見るたびに悲しみがこみあげて僕自身が剥がしていたでしょう。
“YAZAWA”のステッカーだったら、
平成元年くらいが限度だったでしょう。
そう考えると、スヌーピー凄い!無敵!
スタンダードをなめたらあきません。
時代がどんなに変わっても、場違いにならず、気にもならず、
剥がす理由が見つからないんですね。
それ以上に、あの安定したおなじみの笑顔が、
寂しい大学生たちの心を勝手に癒していたのかも。
「あのスヌーピー、一人暮らしのキミにとってどんな存在やった?」
いつかこの下宿のOB一人一人を訪ねていき、
上から目線で質問してみたいもんです。
全員から「別に…」みたいな反応しか返ってこないかもですが。
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