リレーコラムについて

山中貴裕と愛すべきデザイナーたち(1)

山中貴裕

のちに“狂犬タニグチ”の
異名をとることになる谷口昇司は、
北海道出身の温厚な、礼儀正しい青年だった。

金沢美大を卒業した彼は
ぼくの一年後輩として弊社に入り、
ぼくの隣のデスクに座った。
デザイナーなのに紺色のまじめなスーツを着て、
帰るときには「お先に失礼します」と
同じ部のひとりひとりに
挨拶して回るほど律儀な若者だった。

そのころ三流コピーライター(僕のことです)は、
TCC新人賞をとることだけが人生の目標で、
「どうすればTCCがとれるか」だけを考えていた。
中途採用の契約社員だったこともあり、
「TCCでもとらないとクビになる!」もしくは
「つまらない仕事のチームにまわされる!」という
恐怖感が常にあった。

27歳の冬のある日、ひらめいた。
「いま谷口君といっしょに作業している
 ABCラジオの看板の仕事を、アレしてナニすれば、
 すばらしい企業広告もつくれるんじゃないか!」
つまり、看板デザインの仕事をしながら、
その素材を流用した企業広告を自主提案しようと
目論んだのである。
もちろん、TCCをとるために。

徹夜でコピーを書き、
純朴な谷口君を言いくるめてラフをつくらせた。

そして、提案の日がやって来た。

看板デザインの案を見せた後、
強引に企業広告ポスターを自主提案して
担当者に「うん」と言わせるという、
いまから思うとなかなか無理がある計画。
案の定、元来小心者でシャイなぼくは、
看板の説明だけして、モジモジしていた。
急に、怖くて恥ずかしくなったのだ。

「今日は、あきらめよう」と思った。

そのまま打ち合わせが終わろうとした時、
となりで黙っていた谷口君が、なんと
ぼくが隠し持っていたラフをさっと奪い取り、
担当者の前に並べた。
モジモジしているぼくにイラついたのだろうか。
彼は一瞬、“狂犬の眼”をして担当者に言った。

「山中さんが、こんなコピーを書いてみたんです。
 どうですか?ぼくは結構イイと思うんですよ」

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