2013.05.16
箭:昔、裕也さんのこと一方的にしか知らなかった頃、深夜にそこの西麻布の車道のセンターラインを1人で歩いてたんですよね。
樹:うんうん。
箭:あれがカッコよかった(笑)。
樹:それ困っちゃうねー。
箭:道路の真ん中。ずーっと歩いてて、そこの真ん中の線の上をね。
樹:困ったねー。
箭:かっこいいーって思いました。
樹:よく今まで死ななかったよね。
箭:ねー。
箭:希林さん、今年なったんですよね、70に。先日というか1月にね。
樹:1月にね、うん。それで70になって、よくここまで生き延びたなぁっていうのが実感ね。20代であんなにもう…何か、年中…この芸能界の仕事に合ってなくって。丈夫じゃないし、もともとね。それで、人のやることいちいちイライラするから、体壊しちゃうから、私がね。
箭:うん。
樹:だから、なんかこう、気持ちが晴れない日々をずーっと。それでお酒飲んだりなんかして、こう…いたからねぇ。めちゃくちゃにいたんだろうと思う、体的にもね。よくまぁここまで生きたなぁっていうのが率直な感想ね。
箭:うん。
樹:あのね、内田裕也さんがね、「お前なぁ、ジョーも死んだ、力也も死んだ、桑名まであんなに若くて死んでよう、なんでこんな、勘三郎も死んで…、なんでこんな、みんな死んじゃうんだ、どうかなってるのかなぁ」って。だから「なんにもなってないよ、みんな生活してきたように体壊して、ね。その…それなりのやっぱり、病気をいただいてるんだよ」って言ってね。
箭:うん。
樹:「俺はさぁ…」って言うから、「だからあなたがね、早く死ねば、こんなみんな悲しい思いをしないで済む。もう、だいたいこんな74にもなって、ロックンローラーが生きているってのは、ちょっとあんまりないんじゃないの」って言ったら、「そうだなぁ」って(笑)。
箭:(笑)
樹:いい人だからさ、人がなんか言っても「うん、そうだなぁ」って言っちゃうの。
箭:いい人ですね(笑)。
樹:いい人なの。だから自分が順番に早く死んでれば、ちょうどいいんじゃないのって言って。
箭:うん。
箭:もう、ずっとずっと前からそうですけど、たぶん世の中の人も、「希林さん、すげぇな」ってみんな言うのは、まぁ「ロックンロールだ」って、よく、「旦那よりロックンロールだ」って言われること多いと思いますけど、そのみんなが怖がるものを怖くないじゃないですか。
樹:うん。怖くないのね。うん、うん。
箭:老いることもそうだし、病気の話もそうだし。
樹:うん、そうそう。価値観が違うんだね。そうそう、怖くないよ。
箭:きっと裕也さんのこともそうだし。
樹:そうそうそう。
箭:裕也さんでいうと、その中に、その人の怖い部分じゃなくて、それこそチャーミングな部分だったりね。きっと老いもチャーミングだし、病気も…、さっきいただきものっておっしゃってた。
樹:そうそう、賜りもの。
箭:そういう風にこう…捉えますよね。
樹:捉える、全部捉える。だから私の中に、愚痴って言葉がないのよ。
箭:愚痴。
樹:「こうだったのに」とか、「あぁだったのに」って…、そういうものに出会ってしまった自分、という風に思うから。愚痴にならないのよ。食いっぱぐれたら、食いっぱぐれたような自分の生き方っていう風に思っちゃうんだよね。
箭:それはだんだんそうなってったんですか?昔からですか?
樹:昔から。っていうのは、すごく性格が…難しい性格だったから、食いっぱぐれるなと思ってたの。
箭:うん。
樹:この芸能界でなんかやって行かれないなと思ってたの。その通りで、ぶつかちゃってぶつかっちゃって。だから生活する場所だけは、ようするにお金ね、これだけは確保しておこうと思って、もともと不動産が好きだから、家賃収入だけは確保しておけば、そんなに人が周りに寄り付かなくたって、生きて行かれると思って、それだけ確保しといた。
箭:うん。
樹:ほんで、生きて行くうちに、「なんだ、みんな一生懸命生きてんじゃないの」って。私だけ、「気に入らない、気に入らない」って言ってるけど、あの人だって、この人だって、一生懸命生きてるの。だから、ダメなところを見ていったら本当にダメなんだけど、いいところ、「ここいいね」っていう風に思うようにしていく。それをポジティブって言うのかな。もともとはネガティブな人間だから、人をこうやって斜めに、こうやって見ていく、それが役者の生業としてすごく合ってたんだけどね。それがあなた、だんだんだんだんさぁ、「人のこと言える筋合いか」と、いう風になってきたから。そしたら、人のこと、「いいねぇ、あの人いいねぇ」って思ってるうちに、だんだんだんだん、こっちが思えば、向こうもいいものをくれる。
箭:はい。
樹:そういう関係になったら、私なんかいっぱい恩恵もらっちゃってるわけ、人から。っていうことがあるから、最近はもう、人に言うの。「あんたね、ご利益もらいたくない?」って。
箭:うんうん。
樹:「もらいたい」って言うからね、「自分の人生ね、本当にそういう風になるにはね、愚痴こぼさないとなるよ」って。そしたら「でも出ちゃうんですよ」って言うから、それは思うからなのよ。ね、愚痴という形に思わなければいいの、なんて思うのね。
樹:一度目の結婚が22になってすぐだったから。で、25の時はもう離婚してたからね。
箭:早いですね。
樹:早くないよ、3年もいればわかるよ。
箭:早いっていうか、若い。一番最初の結婚が早かったんですね。
樹:そう、もう老成してたからね。だからそのあと30で二度目の結婚したときは、こういう破綻のある人じゃないと生きられないと思った、私が。つまんなくて、人生が。
箭:うん。
樹:だから、内田様は救世主ですよ。
箭:破綻、しかも、ずっとし続けてくれるっていうのは理想の人ですよね。
樹:そう、「おれも大変なんだ」って。
箭:破綻、お前のためにしなきゃいけないから(笑)。
樹:そう、「俺もお前を興奮させるために大変なんだ」って(笑)。
箭:え、その、それはもう30歳のときに、破綻した人じゃないと自分には無理だってわかったんですか。
樹:もうその前に、もう20代の、だから26ぐらいのときには、ずーっと読んでるのは仏教書ばっかりだったの。
箭:ふーん。
樹:それ以外に興味が湧かないんだよね。小説読むなんて人の気が知れなかった。何で作り物のあれがおもしろいのかなと。現実にある…だから映画もそんな見ないし、人の作った物は全然興味がなかった。
箭:あれ、3回じゃないんですか、2回なんですか。
樹:2回なのよ。
箭:あ、僕の間違いでした。
樹:(内田さんが)「2回っていうこと、これだけはお前言うな」っていうのよ。「人は知らないんだから」って言うの。でも何かのときに出てくるからね。
箭:そうですよねぇ。
樹:ちゃんとみんな覚えてくれてて。怒るよ~、それ言うと。
箭:じゃ、あの、これ、これは書かないでおきます。
樹:いやっ全然書いていいよ。書いていいよ、事実なんだから。
箭:大丈夫ですか?でも怒られるのもちょっとあれですよ、裕也さんに。
樹:事実なんだから。自分もあんた…
箭:でも裕也さん、すごくこう、ヤキモチ焼きだから、かわいいんですよね。
樹:そう、かわいいらしいよねぇ。うん。かわいらしいよねぇ。まぁ、でも…お互いにえらい人にひっかかっちゃったなぁって(笑)。
箭:(笑)
樹:でもそれは愚痴でもなんでもないの。
箭:そうですよね、うん。それは人のせいにしてないですもんね。
樹:ひっかかっちゃったなぁって。おもしろかったなぁって思ってるわけよ。
箭:人のせいにするのが愚痴なのかも知れないですね、そういう意味ではね。
樹:そうだね。あ、そうだそうだ。愚痴っていうのは…。
箭:相手のせいとか、自分以外のせいとか、
樹:天気のせいだとか…
箭:天気のせいとか、うん。仕事のせいとか。
箭:やっぱり幸せって大事ですよね。ほんとに幸せって。
樹:やっぱり人から見ても幸せそうに見えるのはいいじゃない。
箭:うん。いいです。いいなぁって思われたいです。
樹:内田裕也さんが、「なんかなぁ、俺は幸せらしいぞ」って(笑)。
箭:(笑)いい。いいですね、それ。いいなぁ。裕也さんやっぱりいいなぁ。俺は幸せらしいぞって(笑)。裕也さんもう何年ですか、そう考えると。
樹:ん?結婚して?40年くらい。
箭:40年ですか。
樹:よかったねぇっていうと、「うーん、なんか幸せらしいぞ」って(笑)。「だけどな、お前も幸せなんだぞ。孫のいる女優ってのは、なかなかいないんだ」って。「孫のいるロックンローラーってほうが、なかなかいないんじゃない、そっちのほうがいないんじゃない」って。
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