弟 (1)
多田?
「子どもの頃は何になりたかったか?」と聞かれたら、僕はいつも「野球選手」と答えている。サウスポーという理由だけで、中1からマウンドに立つことができた。しかし都大会はおろか地区予選3回戦どまり。自分より球の速いピッチャーがその地区だけでざらにいた。
「野球選手」は、夢ですらなかった。そのことに別段ショックは受けなかった。それよりも真剣に考えていたことがあった。
絵の才能で生きてみたかった。
父は本の装丁家である。父からなにかを強制されたことは一度もないが、絵を描いて見せると褒めてくれたし、自分でも上手いと思っていた。デザイナーとしての血は受け継がれている、そう感じていた。
しかし、いつの間にか投手がストライクが取れない恐怖で球を置きにいってしまうように、絵を描く時に「筆を置きにいく」感覚になった。大きくずれないようにペンを細かく動かし、薄く、柔らかく、後で修正できるように・・・
その頃からどうすればいい絵が描けるかよりも、どうすれば褒められる絵が描けるか、それを先回りして考えて煮詰まっていた。
皮肉にもそれは「広告」に必要な才能であるのだが・・・
弟は全く違った。
太く、強く、迷うことなくズンズン描く。ひょろっと背が高く華奢な容姿からは想像のつかない力強さで。
血は弟に受け継がれていた。
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