スキマの奥の奥まで。
博報堂の吉岡丈晴と申します。
初任配属から3年半後。
職転試験を受け、
僕はCR局のコピーライターになりました。
僕がついたコピーの師匠はYさん。
(弊社を誇る大ECDですが、
一応何となく怒られるのがヤなのでイニシャルで。)
Yさんは社内ではもちろん有名人なので噂も多々。
仕事に超厳しい。
(望むところ!)
コピーに超厳しい。
(逆にありがたい!)
打ち合わせが超長い。
(ううむ、そうなんだ。。)
ビールを飲みだす。
(どうゆうこと!?)
異動初日、
Yさんは(ビール片手に)僕の席に来てこう言った。
「ジブンにはな、コレやってほしいねん」
僕の前に差し出されたのは歯ブラシのパッケージ。
この商品のリニューアルを担当してほしいのだと。
ありがたい。
まっさらなキャンペーンを担当できる。
CM、グラフィック、仕掛けもの。
その他いろんなアウトプットの可能性。
ワクワクするジブン。
でもそれは僕の完全な受け取り違いでした。
僕のやる仕事はまさに「コレ」だったのだ。
そう。「歯ブラシのパッケージそのもの」のコピー。
歯ブラシのパッケージに書くとこなんてあるの?
と思う方。今度よーく見てください。
裏面はぎっしりボディコピー。
表面もキャッチが3つぐらい入ってます。
僕はそこから割と長い期間、
歯ブラシの裏面、表面、同ブランドの派生で、
歯磨き、デンタルリンスのコピーをみっちり書いた。
歯のスキマの奥、いや奥の奥。または奥の隅(どこ?)。
歯周病菌の巣が〜、もうやめますね。
Y師匠はこんな場所のコピー誰が読むの?
という隠れミッキーと言っても過言ではない
箇所の文言までいちいち(ビール片手に)見てくれた。
その度、
「ないなあ」「もっと違う書き方あるやろ」
と(ビール片手に)否定してくださった。
同期や後輩がバシバシ新人賞を獲り活躍するなか、
僕はどんどん口腔内のプロフェッショナルとなり、
薬事法や法務に(だけ)詳しくなっていった。
Y師匠のもと、コピーを褒められたことは一度もなかった。
ときは流れ、2012年、夏。
僕は旭化成ホームズさんのお仕事で
「2.5世帯ものがたり」という
シリーズものの新聞原稿を書いた。
長い長いボディコピーを一週間連載した。
原稿は予想をはるかに超える反響。
ノンタレの新聞広告が
ヤフトピに取り上げられるまで
読者に読み込まれた。
だが僕は後日、
もっと驚きのニュースを
人づてに聞いた。
なんと、
かのY師匠がこの新聞広告を
誰が書いたとも知らず
家でクリッピングしていたというのだ。
いいコピーだから。
そして、
「お前らにこれ書けんやろ」と
うちの若手コピーライターを説教するために。
とのこと。
Y師匠はこの原稿が
弟子の作品だと知ったとき、
小躍りして喜んだという。
ヘーベルハウス2.5世帯ものがたりは、
日経広告賞グランプリを獲り、
そして今回の新人賞につながった。
本当にありがたいことに、
僕が写経し続けた
著名なコピーライターの先輩方も、
力作だとほめてくださった。
だけど、僕が一番うれしかった瞬間は、
Y師匠のクリッピングを聞いたときだ。
スキマの奥の奥の裏(どこ?)まで
書き続けた日々は
間違いなく僕の筋力になっています。
Yさん、ありがとうございます。
一度で結構ですので面と向かって褒めてくれませんか笑?
博報堂コピーライター
吉岡丈晴
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