迷走時代1
鵜久森徹
この話がフィクションかノンフィクションか、
それは読む方の判断におまかせします。
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大学へ通うためにボクは愛媛から上京した。
はじめて見る都会は刺激と誘惑に満ちていた。
はっきりとした目標を見失っていたボクは、
将来に潰しがきくだろうという極めて消極的な
理由で経済学部を選択し進学した。
大学でのはじめての授業。
大きな階段教室に集まった学生たち。
この日の出来事が、ボクの人生に
大きな影響を与えることになる。
授業の終わりに教授から「何か質問がある人?」
という問いかけがあった。
よくあることだが手をあげる人は誰もいない。
でもボクには気になることがあった。
だから勇気を持って手をあげた。
「はい、キミ」と教授。
「この授業はボクらの生活に
どう関係してるんですか?」とボク。
一瞬の沈黙の後、教授は吐き捨てるように言った。
「キミみたいなのは専門学校にいけばいい」。
この瞬間、ボクは大学の授業への興味を
完全に喪失した。
語学とか体育のように出席が必要な授業にだけ
顔を出し、後は選択した科目の文献を読み、
前期と後期のテストを受けて単位を修得する
怠惰な大学生活がこうして始まった。
一人暮らしをしながら、気がつくと、
なんのために東京にきたのか、
まったく先の見えない迷路の中にボクはいた。
6畳の部屋には風呂はなく、それ以上に
致命的だったのがテレビがないこと。
インターネットも携帯もない時代に
それは情報に触れる機会がほぼゼロという
環境を意味する。
バイトしかすることのないボクには
時間だけはあった。
ヒマな時間は、ほぼ映画館で過ごした。
4本上映の名画座に足を運び、
週末はオールナイトで映画を観た。
「祭りの準備」という映画との出会いが、
ボクの停まった時間を動かした。
1975年、ATG(アートシアターギルド)製作の
日本映画。主演は江藤潤。
衝撃的だったのは、シナリオライターの夢を抱えて
高知県から上京しようとする主人公と、
強盗殺人事件の犯人として逃走している
主人公の悪友が、駅で偶然に出会うラストシーン。
明るい未来と、暗い未来とのすれ違いが
描き出される。旅立つ主人公の列車の横を
悪友が「バンザ〜イ!」を連呼して走る。
悪友を演じていた俳優が原田芳雄。
猛烈にカッコ悪い。でも、それがボクには
猛烈にカッコよく感じられた。
役者になりたい。
演技の経験もなければ、人前に立つことも
好きじゃない自分が、なんの根拠もなく
役者になることを決めた。
どうすればいいかもわからないまま、
ボクの心の列車は無謀にも走り出していた。
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博報堂の滝川修志さんからバトンと受け取った
鵜久森です。
なかなか書き出せなかったのは、ログインの方法が
わからなくて‥という言い訳はさておき
週の後半からのスタートですが、
気ままに勝手なことを書かせていただきます。
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