リレーコラムについて

本当の名前

李和淑

こんにちは。お盆休みの真っただ中に、
武藤雄一さんからかなり迷惑なバトンを受け取った(笑)、
李和淑(りー・わしゅく) といいます。

私が最初にリレーコラムを書いたのは、2000年1月。
なんと13年半ぶりです。
いったい何人のコピーライターの言葉を継いできたのだろう。
などと思いを馳せつつ、さっそく、始めますね。

先ほど自己紹介で、李和淑 りー・わしゅく、と名乗ったけれど、
私の本当の名前は、金和淑 きん・わしゅく。

なぜ「李」ではなく「金」なのか。
それには父の半生が大きく関わっている。
父は16才のとき、韓国から日本にやってきた。
先に日本に渡った姉が心配で、あとから追ってきたのだ。
当時はまだ戦時中。密航船でやってきた父は入国の際、
別の韓国人の名を騙って登録した。
李官衛 りー・かんえい。それが日本における父の名。
父は偽名のまま学校に通い、偽名のまま母と結婚し、
偽名のまま、私たち姉妹の父となった。

そんなある日、父が突然「名前を本名に戻す」と言い出した。
還暦を機に、本当の名前、本当の自分に戻りたかったのだろう。
韓国の役所との複雑なやりとりを経て、父は40数年ぶりに
「金泰俊」になった。

以来、父は顔をあわすたびに、
お前たちも早く名前を「金」に変えろ、と言った。
姉も私も、生まれたときから「李」なのに
いまさら「金」を名乗るのはねえ、
と渋ってなかなか変えようとしなかった。
そうこうしているうちに、父は死んでしまった。

父の墓には、「金泰俊」という名前を刻んだ。
目にするたび、胸がすこし痛む。
どうして素直に「金和淑」になってあげなかったのかなあ。

私がTCC新人賞を受賞した1998年のコピー年鑑には、
姓の違う父娘が、うれしそうに笑っている。

李和淑の過去のコラム一覧

3451 2013.08.16 飛んでいった男
3450 2013.08.15 右が左で、左が右で
3449 2013.08.14 彼らの寝室
3448 2013.08.13 苦手なもの
3447 2013.08.12 本当の名前
NO
年月日
名前
5719 2024.07.12 吉兼啓介 短くても大丈夫
5718 2024.07.11 吉兼啓介 オールド・シネマ・パラダイス
5717 2024.07.10 吉兼啓介 チーウン・タイシー
5716 2024.07.09 吉兼啓介 吉兼睦子は静かに暮らしたい
5715 2024.07.08 吉兼啓介 いや、キャビンだよ!
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