実家のポケットティッシュ 後編
「…おう、わりぃな」
その言葉に、ほっとする僕。
お兄さんはキティちゃんティッシュを1枚抜き、
気持ち良さそうに鼻をかみます。
もう全部、あげよう。
たぶんまたすぐ鼻水でてくるし。
「よかったらこれ、どうぞ」
「いや、いいよ」
「どうぞ。こんな柄ですいませんけど」
「お、おう」
僕からキティちゃんティッシュをうけとると、
彼はもう一度いきおいよく鼻をかみました。
そして、両方の鼻の穴に、ティッシュをちぎって詰めました。
こわいお兄さんの鼻の穴から、キティちゃんたちが顔を出している。
コピーライターなら、なんかいいコピーそえてやろうというような光景です。
そして、鼻水を止めるためにティッシュを詰めちゃう、
ちょっと変わってる彼の感じに、僕はなぜか親近感がわきます。
「いい匂いするな、これ」
「たぶん、僕の実家の匂いです…
このまえ帰ったときに、もらったやつなんで」
「そうか…」
そう言ってキティちゃんのティッシュを見る彼の表情に、
さっきまでのイライラはありませんでした。
そこから、ちょっと世間話をしました。
お互いの年齢が実はあんまり変わらないこと、
僕は大学生みたいに見えるのでヒゲとかはやしたほうがいいこと、
タトゥー入れてみたらどうかということ、
ちなみにお兄さんは背中すべてに入っていること、
いいえ見せてくれなくて大丈夫ですということ。
やがて店員さんが現れると、
手続きはスムーズに進んでいきました。
そして僕は修理代金のちょうど半分を負担することにしました。
「まあ、痛み分け、っつうことだな」
「そうっすね」
彼と僕の間には、なんかこう、
引き分け試合の後のような
スポーティな雰囲気が生まれていました。
すべてが終わり、店を出て別れるとき、
彼は最後に言いました。
「なんか、いろいろわるかったな」
僕も、こう返します。
「いえいえこちらのほうこそ。では、また」
テメーゴルァ!!!されてから小一時間、
まさかわりと仲良くなって別れるとは…
いやあ、人生わからないものです。
つぎ街で出会ったら、
もしかしたら飲みに行っちゃうかもしれません。
いや、やっぱり行きません。
あと、玄関でいつも
ポケットティッシュを持たせてくれる
お母さん、ありがとう。
おわり。
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