お笑い地獄からこんにちは
永井史子
関西人であること、それはつまりおもろないと死ぬ、ということ。
この関西という土地はすでに秩序が崩壊して久しい。
面白い話が出来なければ殺され、
オチがない話なんてすればやっぱり殺され、
変顔が本気で変でなければやっぱり思った通りに殺される。
それがこの関西。
笑いがすべてを支配する、血も涙もないお笑い地獄である。
さて、そんな土地に生まれてしまった私は、
まったくの無垢で、おもしろさなんていう俗悪なものを知らず、
だからこそおもしろいことなどまともに言えないせいで、
長年、肩身の狭い思いをしていました。
地獄の住人達はこの無垢な私の気持ちなんて理解せず、
すぐ「で、オチは?」とか、
「それ、どこがおもろいん?」とか言ってきます。
まるで鬼。まるで悪魔です。
私はひそかにそうした行為を「オチハラスメント」と呼び、
いつの日か、他人を笑わせなくても許される国に行きたいと願っていたのです。
時には、あまりの「オチハラスメント」に、
だれとも話さずに1年を過ごしたりも、したことがある私。
貴重な一年を返していただきたい思いです。
さて。
そんな私がです、
なぜか関西の広告会社に入ってしまいました。
おもしろきことなきこの世をおもしろく、とでも言いそうなほど、
志高きおもしろ人間たちが群雄割拠する社内。
他人におもしろさなど求めず、
放っておけばずーっと1人で喋り続けてそうな、
産声すら笑い声だったに違いない人たち……。
そう、そこにあったのはオチハラスメントを超えた、オチパンデミックだったのです。
そのあまりのパンデミックぶりに、
怒りも悲しみも消え、私はただその様子をぽかんと眺めるようになりました。
そのうちお笑いというものにたいして、辛いと思うこともなくなり、
挙げ句の果てに、自分自身もおもしろ系コピーを書くようになり、
うっかり、おもしろ関西人の仲間入りをしようとしています。
こんな私が!
中学の私が見たら泡を吹くかもしれません。
自分はもっと無垢な、
笑いとかではなく、オシャレとかクールとかそういうタイプだと、
信じていました。
入社するまで信じて疑いませんでした。
オチパンデミックに身を晒すことで、すっかり「お笑い菌」に染まってしまったのかもしれません。
社内にはびこるこの菌は、あまりにもあまりにもしぶとすぎます。
クールもオシャレも吹き飛ばされます。
私の、クールさは、オシャレさはどこにいったのか。
そもそも自分にそんな要素はあったのか。
いつか、理想としていた自分になれる日を信じて、
今日もお笑い地獄の淵で、もがく毎日なのです。
P.S これから1週間よろしくお願いいたします。
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