金髪にしました。
永井史子
金髪にしました。去年ですが。
撮影が3日連続で、間に一日休日があり、
その日に突然金髪にして翌日撮影に行ったら、
上司に3度見されました。
人が3度見をする姿を、人生ではじめて見ました。
金髪にしたのは単純に、人にあんまり話しかけられないことが悩みだったからです。
私はひたすらいじりにくい人間で、
話しかけるなオーラ、いじるなオーラ、人間全員死ねオーラ、おまえのことなんて興味ないんじゃオーラが、溢れ出しており、
子供には目が合うと避けられ、犬には吠えられ、猫には相手にされない、
そんなどうしようもない存在でした。
フレンドリー感あふれる同期が、最初は親しみを込めてあだ名で呼んできたのに、
だんだん私の心の閉ざしっぷりに馴れ馴れしかったハートをばきばきに折られ、
敬語&名字さん付け呼びに戻してしまったりもしました。
コミュニケーション能力の著しく高い先輩方が、
むしろコミュニケーション能力が高すぎるせいか、
空気を読んで一切いじってこなかったり。
とにかく人間としてどこまでもエアポケットな存在だったのです。
まあそれでも学生時代の私はよかったんですけれど、
仕事に支障があるのは結構面倒くさい、と事務的に考え、
しかたなく人と仲良くなる為に、なぜか、金髪になる決意をしたわけです。
ちなみにそれまでは黒髪でした。
別に金髪になってぐれたわけではなく、
むしろぐれていたハートを金髪で矯正しようとしていたのです。
結果、金髪になってから1週間いろんなひとに話しかけられました。
どうしたの?!という掴みとしてばっちりなリアクションからコミュニケーションがはじまり、
金髪になった経緯を繰り返すたびにだんだん喋りも整頓され、
それなりにわかりやすく語れるようになり、
顔も覚えてもらい、話しかけられる回数も増え、
そして結局…「会話ばっかりでしんどい」と思うようになりました。
どうやら私、実際のところはそこまで「他人にいじられないこと」を悩んでいなかったようです。
1週間もたつと、会話を1年分ぐらいしたせいか、
何を聞かれても、
「あ、はい、染めました」ぐらいで会話を終わらすようになり、
話しかけんなオーラが、金髪のせいで弱まってしまったことを、
心のどこかで残念に思うようになりました。
人と仲良くするのに金髪は確かに有効です。
金髪の不良的な若者が、金よこせだの、目が合っただの、無駄に「フレンドリー」なのもそのせいかもしれません。
だれもが驚き話しかけ、
初対面の人も、ちょっとだけ、私に「フレンドリー」さや明るさを期待してきます。
(ちなみにわたしは黒髪のころ、とある芸人さんに初見で「暗!!怖!!」と言われたことがあります。)
そしてだからこそ、人見知りは加速する。
会話が続かない、金髪以外いじるところが提供できない、
っていうかそこまで楽しくない、
それでも金髪だから話しかけられる…、
「素人はコミュニケーションになんぞ手を出すな。」
私はそれを学んだのです…。
しかし既に事態は深刻でした。
金髪によって若干ではあるもののの、
「思ってたよりは親しみやすい人」というレッテルを貼られ、
私の培ってきた「心の壁」はいくらか取り返しのつかない傷を負っていたのです。
この解決には、なにか策をとらねばなるまい。
そう考えるのは、ある意味、必然でした。
私はもうすぐ頭を黒髪に戻します。
これからまた、
暗い人として最悪のファーストインプレッションを提供し、
だれにもまともにいじられず、静かな世界でおだやかな人生を、
生きていくための、大きな決断です。
明るくないと、フレンドリーでないと、
人生を楽しめないとか思っている人間には、
舌を出してアホーと言いながら、黒髪を振り乱し見せつけたい所存です。
嘘です。
アホー、とは言いません。ほかは本当ですが。
黒髪でもいいじゃない、暗くてもいいじゃない。
以上、永井でした。
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