リレーコラムについて

書くより前に生きること

日下慶太

「作家になるつもりなら、言葉をもてあそぶのはやめなさい。
 もっとよく準備ができるまでは文章を書こうという考えは捨てた方がいいと思うわ。
 今は生きなきゃならないときよ。ただの言葉の切り売りなんかなっちゃだめ。
 学ばねばならないことは、人はどんな話をしているかだけでなく、
 人がどんなことを考えているかを知ることなのよ」 

これは、アメリカ文学の父と称されるシャーウッド・アンダーソンの
『ワインズバーグ・オハイオ』からの引用である。
(今作は隠れた名作だからぜひ読んでほしい)

言葉を切り売りしているコピーライターには辛い言葉である。
コピーライターのだいたいは作家になりたいと思っているだろうから。
(えっ、思ってない?そんなやつは言葉に対して失礼さ)
「作家」を「映画監督」に、「言葉」を「映像」に変えてほしい。
だいたいのCMプランナーには辛い言葉になるのではないだろうか。

この引用で広告制作者を傷つけたいわけではなく。
文中の「作家」を「コピーライター」としてほしい。
「文章」を「コピー」としてほしい。
コピーライターは言葉を切り売りしていないと、
無理を承知ながら仮定してほしい。

若いコピーライターは、コピーを書くよりも、
まず生きてほしいということである。
賞なんて獲れなくていい、生きてほしい。
ただ、コピーライターという職業ながら
コピーを書くなとは無理な注文だろうから、
コピーを書くという行為を通して、自分の人生を生きてほしい。
自分の書いたコピーがむげもなく否定されることに傷つき、
悩み、泣き、人の心を動かしたら思い切り喜んでほしいのである。
そうすれば、きっといつかコピーライターになれる。
ぼくが会った好きなコピーライターの人たちは、
みなコピーを書きながら生きていた。

若い頃は生きなくちゃならない。
だから、コピーライターは遅咲きでいいのである。
しかし、広告代理店では、まさに脂がのってきたときに管理職になる。
まずは生きなくてはならない若いコピーライターに
コピーを任さなければならないのが常なのである。
おかしい、これは本当におかしい。

それでは作家と年齢の関係について調べてみよう。

ドストエフスキー 59歳 『カラマーゾフの兄弟』
ゲーテ 59歳 『ファウスト』
セルバンデス 58歳 『ドン・キホーテ』
クンデラ 55歳 『存在の耐えられない軽さ』
プルースト 42歳 『失われた時を求めて』
ガルシア=マルケス 37歳 『百年の孤独』
トルストイ 36歳 『戦争と平和』
ケルアック 35歳 『路上』

早熟の天才といわれている人々で
フィッツジェラルド 29歳 『グレートギャッツビー』
カフカ  29歳 『変身』

1人のコピーライターにとってその生涯の名作は
定年近くになって書かれるかもしれないのである。

というわけで、会社の上層部の方々、
コピーライターには管理職をさせないほうが会社にとっても
有意義な存在となります。

管理職にさせられたコピーライターの方々、
若手に任せず書いてください。

若いコピーライターは、生きてください。

中堅の僕は、生きつつ、書きます。

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