直川
電通時代の同期である直川は、私のライバルだ。
彼はそう思ってはいないだろうが、
私は、この20年間、そう思って彼を見てきた。
それには、理由がある。
新入社員の頃、
クリエイティブに配属が決まった者たちに対して
ラジオCM研修があった。
私の属したグループの講師が、
数年先輩である澤本さんだった。
数日間の研修が終わった後の宴席で、
澤本さんがわざわざ私の所に来て、耳打ちをされた。
「直川くんは、すでに広告の作り方が分かっている。
彼は、近い将来、スターになるだろう。
キミのライバルは、直川くんだ!」
耳打ちにしては、あまりにも断定的な言い方だったので、
その日以来、直川のことを意識せざるを得なかった。
そして、それは正しかった。
その後、当時の電通関西のスター軍団であった堀井チームに
彼は唯一配属され、数年後に、ACCのラジオCMグランプリを
獲るなどして、名実共に、同期のスターになった。
彼は東大卒なのだが、同大学卒の人に多い、
借り物の理屈で人を追い込むようなことをしない。
クリエイティブ職の人に多い、表現する者の奢りもない。
いつも飄々としており、感情にまかせて乱れたりしない。
数年に一度、飲み交わす酒の場でも、
その間の私の仕事の幾つかだけを嫌味なく褒めてくれる。
(全部ではないところが真実味があって嬉しい)
そして、不思議な縁で、
彼の娘さんは、私と同じ誕生日(9月17日)だ。
同日生まれには、Baseballを野球と訳した「正岡子規」、
名バイプレイヤーの「橋爪功」、
プロレスラーの「蝶野正洋」、
プロゴルファーの「石川遼」がいる。
脈絡のない顔ぶれである。
きっと、娘さんも、
直川に負けない個性ある人物に育つであろう。
今回、このコラムのバトンを渡される時に、
彼から依頼されたことは、
「松尾が独立する時のこと、独立してからのことを書いてくれ」
という内容だった。
それらについては、明日以降に書くことにする。
人間の成長には、良きライバルが必要だ。
天才直川と出会えたことに感謝し、
17日会の一員として彼の娘さんの成長を祈り、
今日のコラムを締めたい。