リレーコラムについて

日本のために。SAKEのために。

岡村雅子

サンタバーバラでやることが多すぎて更新が遅くなりました。ごめんなさい。

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日本のために。SAKEのために。

連日朝8時から夜まで5人ずつ小さな暗室に籠ってずーっと映像を見ている。
CM、WEBコンテンツ、OOHのambient、あるいは公共広告の体験形キャンペーンだったり。
One Showのスタッフはさくさく動いてくれるので、実はもの凄い量を見ているのだが飽きない。
疲れはするけど。
審査するカテゴリーを変えるとき8分ほどの休憩が入るのだが、これが実に貴重だったりする。

事件はきのうの8分間に起きた。宿泊先および審査会場であるFour Seasons Resortの入り口で
私達チームは日差しを浴びながら雑談していた。
そこへ黒塗りのロールスロイスのクルマがすーっと止まる。
あれ、ロールスの何年ものかな?65年?いや59年?
普通にこういう会話ができるのが、CDたちの素晴らしいところである。
 (審査員はじつはクルマ好きが多い)
運転席からレイバンをかけた男性がひらりと降りてくる。私を含む3人が彼に向かって同時に同じことを言った。
「バレパーキングはこちらでうけたまわります」
「…」
 (注:バレパーキングとは、ホテルやレストランでクルマの持ち主から鍵をあずかって
    駐車場まで運転するサービスのこと)
全員爆笑である。英語で書くとLOL。laughing out loud ってやつだ。
パナマ帽に麻のジャケットをはおり裾の細いズボンにスリッポンを裸足で履く
石田純一なRRのオーナー氏も声高らかに笑ってサングラスをはずす。うーん、イケメン。
「そのロールス何年ものですか?」
「1960年」
「惜しい!」「かっけー」
盛り上がる審査員多国籍混合群。
トランクから荷物を出して玄関におき、オーナー氏と彼女は華麗に去っていった。

「ところで今の、ユアンマクレガーだよ」
「まじ?」「トレインスポッティングよかった〜」
ユアンかっこいいとか、今の彼女誰?とかいう会話には、まるで、ならない。
「ユアンがトイレに吸い込まれてしまうシーン、グロいけど最高だよね(これは私)」
「おれは軟派した彼女の家で朝両親に挨拶するとこ」
「ドラッグ中毒だった友人の葬式に参加するとこじゃね?」
みんな昨日映画を見たようにディテールを語る語る。

その人にとって印象に残るシーンが多い映画は、好きな映画になる。
おととい成田からロスに渡る飛行機のなかで「永遠の0」を見た。
見たくてしょうがなかったのでちょっとうれしい。
零戦の戦闘シーンは迫力がある。CGばんざい。
しかし役者が印象に残らないんだなあ。
いまノリにのってる新井浩文、染谷将太、三浦貴大、密かに出ているKATーTUNの上田竜也も
まったく魅力的じゃない。
演出のせいだろうか、いや、きっと丸刈りのせいだろう。
そのかわり「お国のために」「お国のために」というセリフは何度も出てくるので覚えてしまった。
下に出てくる英語字幕 がFor the sake of Japan で、ああ、この大層な言い回しはこんなときに
使うんだなあと、しみじみしていた。

ひとつだけ印象に残るシーンがあった。
KAMIKAZE特攻隊が、零戦に乗り込む前に大将から別れの盃を受ける。
この世での最後の別れの儀式といわれるアレである。
一升瓶から注がれたその液体を、
「お国のために行って参ります!」と全員がぐいっと飲みほし、盃を思いっきり地面に叩き付ける。
for the sake of の文字も画面に出てくるのだが、日本酒好きの私にはこれが
for the SAKE of にしか見えない。
別れの盃は、水盃とも言われ、中は水のはずなのだが
一週間以上日本を離れ、SAKEを飲んでいない私には
SAKEにしか読めなくて、彼らも水じゃなくてSAKEを呑んでいるんじゃないかと
邪推ばかりがひろがるんです。
百田尚樹さん、ごめんなさい。特攻隊のみなさんへの冒涜ですね。

もちろん主演の岡田クンはかっこいい。二枚目すぎる。丸刈りもいける。
どの角度から見ても欠点がない。
彼がまだ若い頃、ハウスバーモントカレーのCMで一緒にロケにいったときに
夜2時間ほど話しこんだ時のことを思い出すと
いまだにきゅんとする。
しかし。最後に彼がアメリカの空母めがけていく場面であの端正な顔のアップがずっと続くんだけど
もちろんかっこいいんだけど。
これが印象がよろしくないのだ。すこぶる。
その前に他の特攻隊員の美しい場面、涙を誘う場面のコラージュがつづき、
「涙みせるように〜」と唄い上げるサザンの桑田さんにeveryone ここは泣くところだぜと念を押されているからなのか。
美しいバラにはとげがある。
美しい表現にはわながある。

日本はどこに向かおうととしているんだろう。
ああ、軍靴の音が聞こえてくる。


* 電通の後輩でSNSの天才、田中泰延さんのアドバイスにしたがって、今回のエッセーを書いてみました。
http://tcc.gr.jp/relay_column/show/id/3566

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