いま北海道で起きていること
ある撮影の日。
その日は節分だったので、
北海道出身のプロデューサーさんがこんな話をしてくれた。
「北海道では、節分のときに、
大豆じゃなくて落花生をまくんですよ」
節分に、落花生?
北の大地は厳しい。食料が乏しかったから、
豆をまいたあとも、拾って食べられるようにと
そうしたらしい。
妙な違和感があった。
そこでふと思った。
そもそも、
なぜ節分に豆をまくのだろう。
なぜ豆が鬼に効くのだろう。
気になって調べてみた。
豆をまくのは
「魔」を「滅」するという意味の
「まめ」が由来だった。
炒った大豆には特別な力が備わっており、
それで、鬼の目を射ることで、
退治できるとされていたのである。
つまり僕らが無意識に投げた豆のいくつかは、
知らぬうちに鬼の目を射て、滅していたのです。
しかし落花生では、
力の源である豆が閉じ込められてしまっており、
目に入るサイズでもない。
いわば、弾丸を放つべきところに、
弾丸を包んだマガジンを投げているようなものであり
「鬼は〜外!」とどれだけ唱えても、
鬼はどんどん家の中に入ってきていることになる。
恐ろしいことだった。
「落花生、効かないからやめたほうがいいですよ」
僕は言った。
が、地元愛の強いプロデューサーさんは
むきになって反論してきた。
「いや、落花生も先端部分なら目に入るかもしれない」
そんな無茶な。
「それに僕は食べものを大切にしてきた
ご先祖様を誇りに思っている。」
その心がけはすばらしいけど、
効かなきゃ意味がないような。
もう少し調べてみた。
節分の起こりは706年。
1300年近くも、人々は、豆で鬼を滅してきた。
それで平和を維持してきたのである。
Peace Keeping Omame活動によって日本は救われてきたのだ。
しかし落花生では鬼の間引きができていない。
いまこうしている瞬間にも、
北の大地ではものすごい勢いで鬼が繁殖し、
勢力を拡大しているかもしれないのだ。
これはメディアが報じない、ゆゆしき事態ではないですか。
するとプロデューサーさんは、いきなり憑き物が落ちたように
「目が覚めました…」
と言いはじめた。
強い地元愛が別の方向に作用したのだ。
彼はその場で、実家の妹にまで電話をかけていた。
「おい、お前今日何まいた?…豆だよ豆!?何?ミックス豆?
だめだだめだ!大豆買ってこい!大豆!」
妹と話したのはずいぶん久しぶりですと言っていた。
久しぶりの兄との会話が
節分の豆の話だった妹さんの心境やいかに。
しかしそれだけ真剣になるべき事柄なのです。
こうして北海道で少なくとも一軒は、
ことし鬼を滅することができた。
北海道の人がいたら、どうか教えてあげてください。
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