リレーコラムについて

2014年春

岩田純平

こんにちは。
電通の岩田です。

こどもが一人います。
男の子です。
三歳です。

ひらがなを
ちょっとだけ読めます。

得意なのは
「も」と「か」です。

なぜならば、
保育園でいっしょの
ももかちゃんが
好きだからです。

保育園の下駄箱とかの
「ももか」
の文字を
まっさきに覚えたのでしょう。

「ももかの“も”だねえ」
「あー、こっちはももかの“か”だね」

とひらがな表を見ながら
よく言っています。

ちなみに「く」と「へ」は
どちらも「く」と読みます。

文字の向きに
しばられたくない
タイプなのでしょう。

そんなうちの子は
車のCMが大好きです。

ビールのCMも
好きなのですが、
車にはかないません。

特に
「ビュン!」
と走っている
車のCMが好きです。

こどもにとっての
車の価値観は
速いかどうかしかないのです。

だからF1も好きです。

でもF1が速すぎることは
わかっているらしく、
散歩していると

「ここにF1が走ってたらあぶないよ」

と教えてくれます。

あとは
はたらく自動車が好きです。

散歩の途中で

「ホイールローダーだねえ」

などとマニアックな車も
教えてくれます。

ミキサー車は
コンクリートミキサー車
と正確に言います。

車種も
アルファロメオあたりまでなら
エンブレムでわかります。

最近は僕の仕事が
CMをつくることだと
わかってきたので、
よく聞いてきます。

「パパは何のCMつくってるの?観光バス?」

「う・うん、観光バスだよ」

「すごいねえ。ボルボのCMもつくれるといいねえ」

「そ、そうだね」

実際は観光バスのCMは
つくっていないし、
ボルボのCMがつくりたいと
言ったこともないのですが、

「観光バスのCMつくってくる」

と言えば土日に仕事になった時も
穏やかに送り出してくれるので
観光バスのCMには
お世話になっています。

そんなうちの子ですが、
「くもんいくもん♪」
のCMが好きで
たまに歌っています。

「それパパがつくったんだよ」
と嫁が教えてあげると
「すごいねえ、ボルボもパパがつくったのかなあ」
と言っていたそうです。

あとは
角ハイボールのCMも好きで、
見終わった後に

「なんだかのどが渇いてきた」

と言っていました。

グループインタビューにいたら
代理店の仕込みだと思われそうです。
CMが効きやすい子なのでしょう。

全くターゲットではないのですが。

角はタレントが
小雪さんになった時から
担当させていただいています。

最初はハイボールではなく、
「角瓶」の、
いわゆるウイスキーなCMでした。

ずっと同じアルコールである
養命酒を扱っていた僕にとって、
角瓶は憧れのブランドの一つでした。

タレントの小雪さんと
音楽の「ウイスキーがお好きでしょ」
は早い段階で決まりました。

で、あとは企画とコピーなわけですが、
その時に僕が書いたコピーは

「わたしは氷、あなたはウイスキー。」

というものでした。
他にもいろいろあったのですが、
本人的には
これが一番いいのではないかと
思っていたのです。

ところが、最初、
打ち合わせに持って行った時は
みんながきょとんとしていました。

きょとんというより
何コレに近かったかもしれません。

失笑です。

でも一人だけ
「コレいいな!」
と言ってくれる人がいました。

ECDのO島さんです。

たくさん書いて持って行った
コピーの束から
そのコピーにだけ
ぐるぐるぐるぐる、と
えんぴつでマルを書いてくださりました。

こどもみたいな笑顔でした。

素敵な人だな、
と思いました。

そうして小雪さんのシリーズがはじまりました。

2007年の春でした。

角では一つ自慢話があって、
小雪さんの立ち上がりの2本は
監督が市川準さんだったんです。

ある時、
編集の合間の食事の時
だったと思いますが、
市川さんに

「今度映画を撮るからコピーを書いてよ」

とお願いされたことがあるのです。

「ほんとは年下が好きだったのにな、
みたいなヤツお願いしますね(笑)」

その映画は
太宰治の「ヴィヨンの妻」で
脚本もいただきました。

残念ながら、
映画を撮影される前に
市川さんは急逝されてしまったので
僕がポスターのコピーを書くことは
なかったのですが、

監督自らに
映画のコピーを
ご発注いただけるなんて、
コピー頑張ってて
よかったなあ、
と心底思いました。

コピー頑張ってて
よかったなあ、
と心底思ったことといえば、
ルーツが本になった時も
そうでした。

本になったいきさつを
雑に説明します。

「ルーツ飲んでゴー!」の2年目
     ↓
ジャンプとのコラボも終わってひと段落
     ↓
次の展開どうしよう
     ↓
ポスターもいいけど、都市部限定だよね
     ↓
全国媒体でやりたい
     ↓
新聞とか
     ↓
でも新聞は高い
     ↓
サンヤツなら安いよ
     ↓
しかも朝刊の一面
     ↓
じゃあ本をつくろう
     ↓
本にできるコンテンツあるね
     ↓
コピーが1000以上あるね

この流れをつくってくださったのも
電通で三大お世話になった人の一人でおられる
山田壮夫さんです。

昨日のコラムで
「山田さん」と書いたところ
どの山田さんだ?
との問い合わせが殺到しましたので
フルネームにしました。

あ、仮名です。
個人情報保護法的に。

サンヤツと言いますのは、
朝刊の一面の下の方にある
書籍広告のことで、
通常全3段を8つに割っているので
38(サンヤツ)と呼びます。

書籍の広告は
文化の保護かなんか理由で、
割安なのです。

私たちは
「ルーツ飲んでゴー!」
という書名の本をつくります。

書名なので
当然大きく広告できます。

さらに、
新聞を読む時にまつわる
閉塞感を書いて
本に収録しておけば、
本文の引用ということで
そっちの方のコピーも
広告に入れられる。

そんな感じで
ルーツのコピーが
本になり、
ルーツの広告が
新聞でできたのです。

本なので、
著者の名前を
広告に出さなければなりません。

恥ずかしいので、
小さく小さく
入れてあったのですが、
それを見た親戚が

「あんた本出したんやなあ」

と電話をくれました。
あんなに小さな名前なのに。

広告の効果はすごい
と思いました。

「ルーツ飲んでゴー」
は3年続き、
次のシリーズとしてはじまったのが
「強く香る。強く生きる。」
という松田龍平さんの
ハードボイルドな
シリーズでした。

2010年です。

これは80年代のパルコ
みたいな広告を
今やったら意外と目立つぞ、
と思ってつくったものです。

「あきらめるな。クセになる。」
「どんな絶望にも、必ず隙はある。」
「敵が多い。退屈しない。」
「人生の道草は、やがて花をつけていく。」

残念ながら
1年で終わってしまったのですが、
このシリーズ好きでした。

もう1年やっていたら
化けていたかもな、
と思ったりします。

このシリーズから学んだことは、
今の時代、コピーは
「意外と効く」
ということです。

というのも、
ツイッターとかSNSが
この頃から広まり、
言葉が流通しやすくなったのです。

特に電車でぼーっと立っている時は、
目の前に気になる言葉が書いてあると
ついつぶやいてしまう。

グラフィック広告が
どんどん広がっていく。

国民みんなが
いい言葉に飢えはじめているような
そんな時代の兆しを感じました。

で、
「強く生きる」
の次にはじめたのが
「考える人に」
というシリーズでした。

タレントは竹野内豊さんです。

この時のテーマは
「ギャップ」
でした。

かっこいいけど、
ちょっと面白い憎めないヤツ。
ルーツもそんな人に
思われたい。

普段怖い人に
やさしくされると
キュンとなる。

映画のジャイアンは
かっこいい。

地味な子が
水着になったら
まるで別人のプロポーション。

不良が
ずぶ濡れの捨て犬を
助ける。

みたいなことで、

かっこいい人が
面白いこというと
必要以上に面白い。

というか
好感が持てる。

早い話が、
おそろしく男前な竹野内さんが
コーヒーを飲みながら、
実はくだらないことを考えていた、
というシリーズです。

「無人島に一つだけ持っていけるとしたら何を持って行くか」

とか問いかけて
あとはだらだらと
あーでもない
こーでもない
と自問自答するフレームなのですが、

これは
岩田三大大好きアートディレクターの一人
金井くんのアイデアです。

最初は問いかけだけにしようと
思っていたんです。

「問いかけ + 考える人に。」
というシンプルフォーマット。

ところが金井くんから
上がってきたカンプには
裏文字でたくさん
コピーが書いてあります。

裏文字と言うのは、
文字通り逆さにした文字のことで、
レイアウトする時に
ボディコピーの分量を決めるために
仮に入れておくのに使います。

早い話が
もっとコピーいっぱい書いてね♡
というメッセージです。

「岩田くん、これさあ
 東京大学物語の村上みたいに
 ウジウジ考えてるコピーにしない?」

東京大学物語は、
その昔スピリッツに
載っていたマンガです。

ウィキペディアででも
お調べいただければと・・。

主人公の村上くんが
0.01秒とかの間に
起こった事態についての
いいわけなんかを
あーだこーだ考えるシーンが
よく出てきます。

それをやろうと。

なるほど、
さすが金井くん!

と思いつつ、
書くのは意外と
大変でした。

普段と使う脳が
違う感じで・・。

短距離走に慣れた選手が
中距離走ってるみたいな。

キャッチ100本書くのは難しくないけど、
ボディコピー5本書くのはしんどい。

ということを知りました。

ちなみに、TCCでは
この手の長めのコピーは
不利です。

あんまり・・
読んで・・・
くれ・・・ない・・・

でも、
ウジウジ考えてる方のコピーはさておき、
「考える人に。」
というコピーは
実は意外と戦略性のある
いいコピーだと思ってます。

コーヒーを飲む時って、
たいてい考えごとをしている時です。

運動しながら飲む人はいません。

コーヒーを飲みながら
気分転換とか、
一服とか、
何かしら考えを落ちつけようとしている。

「考える時に飲むコーヒー = ルーツ」

その状況をごっそり
ルーツのものにしてしまえば、
かなりいい陣地が取れる。

柄にもなく
そんなことを考えてました。

まあ、そんな
「考える人」は1年で終わり、
次にはじまったのが
「それでも、前を向く」
でした。

コンセプト的には
「考える人」の時の
「ギャップ」理論の応用で、

おそろしく男前な竹野内さんが
僕らと同じように、
理不尽なことで悩むシリーズです。

「美女に
 声を掛けられた。

 刑事だった」

「『別れよう』
 と言った。

 『つき合ってたんだ』
 と言われた」

「流れ星を見つけた。
 

 何も思いつかず、
 『よろしくお願いします』
 とだけ祈った」

「出る杭は
 打たれる。

 出ない杭は
 忘れられる」

「彼女が
 自分を探す
 旅に出た。

 新しい彼氏を
 見つけて
 帰ってきた」

このシリーズ最大の発明は
「間」です。

2つの文章の間にある
思いきった余白。

読み手は
その「間」に
それぞれの物語を
つくって読む。

言葉の力が
何倍にも
増幅される。

この余白はコピー史上に残る
発明なのではないか!?

と誰かコピー評論家の人に
語ってもらいたいくらいなのですが、
そんな仕事の人は日本にはいないので
仕方なく自分で書きます。

自分で書くと
自分大好きな人みたいで
がっかりですよね。

でも、
このシリーズは
実際評判が良くて、
非公式のbotがいくつもできたり、
NAVERでまとめていただいたり。

コピーは
コンテンツ化することで
世に広がっていくんだと
思いました。

悩みを共有するのって
たぶん
人の本能なんだと思います。

前向きな言葉で
前を向ける人は
幸せですけど、

世の中、
電通の人みたいに
前向きな人ばかりじゃ
ないですから。

犬が歩けば
棒にあたるように、
人は生きていれば
壁にあたります。

何事にも、
モヤモヤした閉塞感が
つきまとっていたり
するものです。

でも、
ずっとモヤモヤしている
わけにもいかない。

そんな気分を、
突き破っていかなくては
ならない。

そんなとき
本当に効く言葉は、

「ガンバレ!」でも、
「大丈夫」でも、
「ありがとう」でも、
「負けないで」でもなくて、

自分と同じように
まいっている人の、
心のつぶやき
なのかもしれない。

自分と同じようなことで
閉塞している人がいる。

そう思うだけで、
なぜか気持ちは
軽くなるものです。

じめっとしていた
モヤモヤが、
からっと乾いて
いくものです。

書いている僕も
最初は
そんなことには
気づいていませんでした。

でも、
いつの日か
広告を見た人が
ブログか何かで
書いていたのです。

後ろ向きな言葉で、
人は前向きになる。

そうか、
僕がやりたかった、
というか
感じていたのは
そういうことだったんだ。

書いているだけじゃ
気づかないことを、
気づかせてもらえるのも
この仕事の
素晴らしいところです。

人はちょっとずつ
成長していきます。

いまルーツは
「甘い香り」
というタイトルの
「連続車内小説」
シリーズをはじめました。

いつかまた
本にまとまるといいな
と思います。

そんな2014年の春です。

岩田純平の過去のコラム一覧

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3611 2014.04.16 2006年夏
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