リレーコラムについて

はじめまして。佐久間の母です。

佐久間英彰

私の発明好きは、母の影響かもしれない。

母は発明が好きだ。

家は飲食業なので台所周りのアイデアが多い。
みそ汁をより溶かしやすくするような柄付きザル。
風が店内に入ってこないようにするシートetc.
数えるときりがない。
今ではそれらの発明がどこかで製品化されてたりして
何とももったいないことしてたなぁと思う。
しかし母はあまりそういう事は気にしない。
自分の店が少しでも良くなるのであればそれでいいらしい。

母はこれを発明とは言わず「工夫」という。
発明というと何か特別なスキルを連想させるが
工夫と言うと誰にでもできるちょっとした事に変換される。
まさに言霊だ。
結果、それにつられて従業員さんも工夫するようになった。

その発想自体が発明だ。

母が最初に与えてくれたオモチャは段ボールだった。

店には段ボールが捨てるほどあり、好きなだけ使えた。
業務用段ボールでよく秘密基地をつくってた。
壊れたらまた作る。時には繋げ合わせて2LDKにしたり。
気分は月面のコロニーに住む宇宙飛行士。妄想は広がる。
他にも剣や鎧や盾を作ってチャンバラごっこしてた。

何でも作ってしまうのはこの頃のスキルなのかもしれない。

母はやっぱりオモチャを買ってくれなかった。

特に小学の頃は、ファミコンが欲しくて仕方がなかった。
だから毎日のように友達の家に行って遊んでた。
ある日、友達から「佐久間がファミコン壊した」と電話が。
母は菓子折り持参で謝りながら後日ファミコンを贈った。
「うち貧乏なんとちゃうの?」と、子供には買い与えず、
友達には渡す母の姿を見て、子供心には理解できなかった。
後日友達は「佐久間はファミコンを壊すぞ」と周りに吹聴し
それから他の友達の家にすら行きづらくなった。
そこで私は何をしたかと言うと、妄想ファミコンをした。
段ボールでコントローラーをつくり、
十字とボタンを貼付け、目を瞑ってマリオをやっていた。

あの経験できっと妄想ぐせが養われたのだと思う。

(ちなみに私は今、大学で講義をしているが、生徒に
「他人が作ったゲームで高得点を取るのは空しい。
自分でシステムを生み出せる人間になれ。」と教えている。
その考えはここから来ているのかもしれない。)

母はコーラやハンバーガを絶対に食べさせてくれなかった。

「歯が溶ける。バカになる。」と言って子供を脅す。
だからおやつは、イリコ(煮干し)や麩菓子、そしてお茶。
夕食は、店の売れ残りの刺身が毎日並ぶ。
他に白子やモズク、酢の物など「おっさんか!」と
思うくらい地味な食事だらけだった。
もちろん他に毎日作ってくれる手料理も美味かったが、
子供心にハンバーグやステーキが食べたかった。

でも大人になってわかったが、
5歳までの食事で子供の味覚はほぼ完成されるらしい。
だから舌には自信があるし、
コーラーやハンバーガが未だに欲しくないのは
本当に親に感謝したい。

母はとにかく働く事に厳しい。

小学生の時、木にぶら下がっている蓑虫を大量に採り、
店の前でゴザ敷いて一匹100円で売ったことがあった。
顔なじみのお客さんが、お情けで買ってくれる。
夕方までに2000円くらいを稼いだ。
母にそれを自慢すると、突然私をしばき倒した。
「人様をだまして稼ぐな。自分で汗水流して働け。」と。
すぐに全ての家に訪問し泣きながら100円ずつ返した。

この経験からか、
働かないでお金をもらう人を見ると無性にイライラするのは
この頃のトラウマが多分にある。

そんな厳しい母だったが、一度だけ困らせたことがあった。

それは大学生の時、
私に遺伝的な持病があることが発覚した。
全く気がつかないくらいの程度のものだったが、
調べたら母から遺伝する確率の高い病気のようだ。
(今考えるとなにも発症せずたいした事なかったのだが^^;)
母に泣きながら電話で話した。話したというより、責めた。
母はただ「ごめんね。ごめんね。」というだけだった。

後日、母から手紙が届いた。
便せん何枚にも渡りびっしりと文字が書かれていた。
「私のせいで、あなたの未来を狂わせてしまい
本当にごめんなさい。
とんでもない遺伝子を受け継がせてしまい
本当にごめんなさい。」と震える文字で。
文字でここまで母が悲しみ苦しむ姿が伝わるとは、、、
というくらいの内容だった。
私は母をここまで困らせてしまった事に、後悔をした。
ずっと胸の内に秘めておけば良かった。
こんなに泣かせたのは後にも先にもこれがはじめてだった。

あの時は凄く責めてしまったけど、
今なら胸を張って答えられる。

> とんでもない遺伝子を受け継がせてしまい
> 本当にごめんなさい。

とんでもない。
結構いいものを受け継ぎました。
発明心という面白い遺伝子を。
何事にも楽しめる今の自分があるのは、
母のおかげだと思っています。

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