事件は、NYの路上で。(前編)
大学院生のとき。
当時まだ彼女だった妻とNYに旅行しにいきました。
旅行と言っても、お互い建築学生。
遊びに行くというよりかは、
建築を見に行くという、かなりマニアックな旅です。
美術館では、作品より空間を。
服屋では、服よりレイアウトを。
駅では、移動より動線計画を。
もちろん、学生だからお金もありません。
朝昼晩のごはんは、もちろん節約。
イエローキャブなんてもってのほか。
地下鉄やバスを乗り継いでは、
ひたすらNYの街を歩いていました。
3日目のこと。
それだけNYの街を歩いていれば、事件は起きるものです。
地図を見ながら、歩いていたところ、
僕は、ワンブロック道を間違えてしまったのです。
気温は、30度越え。時刻は15時過ぎ。
ちょうど歩き疲れていたころです。
ささいなケンカがおきました。
ここは、NY。
道行く人は日本語なんて分かりません。
恥じらいもなく言い合いが始まってしました。
「道を間違えたくらいで、怒るなよ」
そう言った瞬間…、
急に目の前が真っ暗になりました。
そして、その直後、尋常ではない激痛が左目に走り、
僕はその場にうずくまったのです。
一瞬何が起こったかわかりませんでした。
僕の足下には、ガイドブックが落ちていました。
そう、投げられたガイドブックが左目にあたったのです。
それも、角が。
あまりにも痛そうにする僕の姿に、
はじめは冗談だと思っていた彼女が近づいてきました。
そして、僕の目を見た彼女の表情が
青ざめていくのが見えました…。
鏡をうけとり、恐る恐る見たところ…、
なんと、目の中から、血がでていたのです。
(そのときの写真があるのですが、
あまりにも気持ち悪いので割愛します。)
人生の中でも、なかなか経験しないケガ。
それも、ここはNYです。
もちろん言葉は通じません。
道行く人に助けも求められません。
スマホだってない時代です。
この絶望的な状況に、この大ケガ。
体が小刻みに震えたことを覚えています。
そして、僕は初めて、
イエローキャブをつかまえるのでした。
(明日につづく)
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