リレーコラムについて

そういえば、父上様

清松俊也

今年で七十五歳になる父は、大分県佐伯市で鶏の唐揚げ屋をやっています。
14年前に母が癌で死んでからもずっと一人で。
田舎町の国道10号線沿いの小さなお店(実家)で。

「お父さんは、発生主義やけんのぉ」
それが、真面目一筋の父の、昔からの口癖でした。

発生主義?上手い言葉じゃないけれど、
「思い立ったときにすぐ行動を起こす」「やりたいことが発生したらすぐやる」
だいたいの意味は、そんなところだったのでしょうか。

近所のサミット(スーパー)で七夕の短冊に
「リレーコラムを最後まで走れますように」と大人の弱音を書き綴りました。
こんばんは。キャッチャーゴロの清松です。

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拝啓、父上様

お元気ですか。こちらは家族4人、皆、元気でやっています。

お袋のお墓の掃除、ときどきやっていますか。
一日一食主義の飯をちゃんと食べていますか。
朝方まで居間でうたた寝などしていませんか。
寝煙草の火で茣蓙を焼いたりしていませんか。

そういえば「今度、娘たちを連れて帰るから」と電話で言って、
もうずいぶんと月日が経ちますね。

そういえば、先日、次女の誕生日にクール宅急便で送ってくれた
鶏の唐揚げのお礼も、まだ伝えていませんね。

そういえば、十年くらい前にギャンブルで大負けして、
妻に内緒で借りた十万円、まだ返していませんね。

…なんだか キリがないですね。

駄目ですね。この歳になっても俺は、
まだ親父の言う「発生主義」が身についていませんね。

そういえば、ずいぶんと遠回りしたけれど。
今年ようやく「TCC新人賞」という賞をもらうことができました。
皆さんのおかげで。
報告が遅れて、ごめんなさい。
(まぁ、言っても分からないと思うけど)

拝啓、父上様

とにかく、言っておきます。ありがとうございます。
何がじゃ?と訊かれると困るけど。
ただなんとなく。

今年の夏休みは、成長した娘ふたりを連れて実家へ帰ろうと思います。

追伸:思い立ったんで、ここに書いてみました。発生主義(?)で。

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あ、そういえば親父はインターネットなど見ないんでしたね。

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それと最後に「そういえば」をもう一つ。

きょうの夜、TCCのクラブハウスでは、
故・梅本洋一さんを偲ぶ会が催されているはずです。

二十数年前、当時大学生だった僕は宣伝会議の一般コースの授業で、
この偉大なるコピーライターの大先輩の言葉に耳を傾けたことがあります。

「一般化したリアリティではなく、独自のリアリティを」

「とんがれ!」

あの日、あの時、東銀座の中小企業会館の教室の白い蛍光灯の下で、
梅本さんは、間違いなく、そうおっしゃっていました。
熱く、厳しく。

帰りの京浜急行線の電車の中で、膝の上にノートを開いて
授業の復習をしながら心を熱くした記憶が、
ちょうど今、この文章を書きながら頭の中に蘇りました。
不思議ですね。

梅本さん、ありがとうございました。

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