ライムのiMac。
1999年 春
バイト中、先輩が突然話しかけてきました。
「森田くん、パソコン買わないの?」
なんのこっちゃ分からない僕に、先輩は続けます。
「これからはインターネットよ」
「就職活動にもパソコンが必要やで」
「パソコンに興味ないこと自体がヤバイわ」
「パソコンがないと時代から取り残されるね」
なにを言いたいのかよく分かりませんでしたが
とりあえずパソコンがないとイケてる大学生になれない気がし、
パソコンを買うことにしました。
「買うならついていったげる」
「ぼく詳しいから一緒に選ぼう」
先輩はパソコンのこと、やさしくいろいろ教えてくれました。
「配送料もったいないから車で運んだける」
「ネットの配線は任しといて」
「周辺機器も選んであげるからね」
なにからなにまで先輩がやってくれました。
それだけではありません。
先輩はすごく親切丁寧でした、まるでアフターケアが売りの電気屋さんのように。
「ネットちゃんとつながってる?」
「いつでもゲームが出来る設定にしといたよ」
「音楽好きの森田くんのためにCDRを作れるようにしよう」
パソコンを買ってから、先輩は毎日 僕の部屋に来てくれました。
部屋に着くなり、パソコンを立ち上げ 正常に動いているかを確かめてくれます。
「いいね~、こんないいパソコン持ってるの森田くんだけやで~」
先輩は立ち上がるパソコンを見ながら、いつも満面の笑みでした。
よほど嬉しいのか立ち上がった後もパソコンの前から離れません。
「ほら、見て。ぼく、大学でこういう作品を作ってるねん」
先輩は芸大生でした。
「いま、ポスター作ってるんやけど、モデルやってくれへん?」
「あ、今度、映像作品作るから手伝ってよ」
「大学でこういう課題があるねん。明日提出やから、今夜は徹夜やな~」
何の目標もなかった普通の大学生の僕にとって、先輩の存在は異文化でした。
かっこいいなぁ~と単純に思ってしまいました。
「今度友達連れてきていい?みんな森田くんに会いたがってるねん」
気がついたら僕の部屋は、先輩の作業場になっていました。
毎日現れる先輩と先輩の友達たち。
先輩の友達のiMacも数台持ち込まれ、
夜から朝にかけてみんなカチャカチャカチャカチャひたすら作業をします。
僕はといえば、先輩のためにコーヒーメーカーを新調。
先輩のために簡易睡眠用のソファーベッドを買い、
先輩のためにペペロンチーノの作り方を覚えましたとさ。
数年後
先輩は、広告業界に就職。
追いかけるように僕も、この業界を目指すことになります。
初めて買ったパソコン、ライムのiMac。
いま思うと、それがはじまりでした。
先輩
あの日 僕は青のMacを買うつもりでした。
「青は品切れで2週間待ち」と店員が言ったとき、先輩 かなり焦ってましたよね。
課題の締切が迫ってたから。
後にも先にも聞いたことないトーンで先輩が僕に言った言葉、覚えてますよ。
「森田くん、ライムでええやん。ライム、オシャレやで。」
そんな先輩のおかげで、僕はいまコピーライターをやってます。
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その先輩ってあいつですか? 私もえらいめにあいましたわ~等は、morita@bigface.co.jpまで。
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