報道部という衝撃 ②
「食卓を守れ」キャンペーンから1年たったある日。
深夜のデニーズに、東海テレビ報道部のH記者から呼び出された。
「今年も、キャンペーンをご一緒していただけませんか?」
前回は、いろいろあり過ぎた。だから、嬉しい依頼だった。
早速その場で、テーマを自主提案した。
「交通安全」
当時も、愛知県は交通事故死者数日本一。
従来と全く違う啓蒙に挑戦したいと、考えたからだった。
広告が求める「リアル」と報道が追う「事実」は、まったく違う。
報道部相手に、広告的な「らしさ」「ぽさ」は通用しない。
県警で調べ上げた本当の死亡事故現場でしか撮影しないし、
遺族の声を聞くためなら、どこまでもロケ車を走らせる。
その日のロケ地は、名古屋市内の大きな交差点。
ふだん広告界で暮らす清水監督と自分は、
ガードレールの献花に手を合わせる人物がいた方が画が強くなると判断し、
エキストラの女性を仕込んで撮影したのだが、案の定K報道部長からNGが出た。
エキストラを使わない別バージョンがなかったら、間違いなくお蔵入りしていた。
その日のロケ地は、兵庫県加古川市。
ロケバスは、高速を乗り継ぎながら進んでいく。
居眠りから目覚めた撮影班を待っていたのは、背の高い塀だった。
「加古川刑務所」
初めて見る刑務所だった。
凶悪犯が収監されている刑務所と比べれば、塀の高さは低いという。
取材場所は、普段受刑者が座学を受ける天井の高い講堂。
イスを並べ直して、撮影のセッティングは終了した。
刑務官に連れられて、その受刑者は現れた。
若い。30歳ぐらいだろうか。
「ええ、営業してました」
どこにでもいる男の、かすかに震える肉声。
自分も彼と同じ立場になったかもしれないという恐怖。
「どうして、自分だったんだろう」
元営業マンの受刑者は、その言葉を何度も何度も繰り返した。
途中から思い出したように、
反省という単語を口にするようになったのが忘れられない。
おそらく、彼はまだ悔み続けていたのだ。
塀の中には、全国の受刑者が作った刑務所作業製品を並べる販売所がある。
H記者が、職場仲間のお土産を大量に買い込んでいた。
東海テレビ「交通安全」キャンペーンCM
5827 | 2024.12.22 | 包丁 |
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