報道部という衝撃 ④
ある日の昼。
狭い定食屋へ、東海テレビ報道部のK部長に呼び出された。
「都築ちゃん、自社キャンペーンのつぎのテーマ、何にしようか」
日本の食糧問題、交通安全のあとだ。
そういえば、K部長が以前からやりたいと言っていたテーマがある。
「そろそろ自殺で、どうでしょうか」
「自殺ね」
ズルズルと音を立てて、二人の喉にラーメンが滑り込んでいった。
部長から提示されたのは、スタッフの一新だった。
「若いヤツらに、チャンスをやらないとね」
プロデューサー的な仕事をしていただく記者、
そしてカメラマンが新しくなった。
ジュンク堂へ行って、自殺に関する本を何冊も購入した。
遺族が書いた手記。予防と取り組むNPOがまとめた体験談。医学の専門書。
自殺が持つ、意外な事実。複雑な感情。
自分も祖母をひとり、自殺で失っている。
それなのに、知らないことが多すぎる。
自分たちは、もっと自殺について知るべきだ。
そう思った。
母と娘が、別々の棟の最上階から同時に飛び降りたという公団。
火だるまになって亡くなった青年が道をさまよい、
最期に横たわった跡がアスファルトに残る駐車場。
住宅街にある、自殺が絶えない林。
毎年自殺者が出るにもかかわらず、いまだに鎖も張られていない観光名所。
娘を自殺に追い込んだ人たちへの恨み節が、止められなくなる母親。
下書きを清書したと思われる遺書。
心がふさぐロケが続いた。
記者の身に危険が及ぶ可能性が出たため、お蔵入りしたCMもあった。
撮影後に使用許可がどうしても取れないCMもあった。
オンエア後、ここに記すことがはばかられることも起きた。
報道部が望む民間放送連盟賞もギャラクシー賞も、手が届かなかった。
しかし、東海テレビ報道部と出会わなければ、
この有意義で難儀なテーマと向き合うこともなかった。
機会をいただけたことに、心から感謝したい。
東海テレビ「自殺と向き合う」キャンペーンCM
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