壁
萩原ゆか
隣で寝ていた娘が、目を覚ました。
一方的に話してくる。
「あ、ママ。いつ帰ってきたの?」
「きのう、からあげ食べたよ。」
「保育園でミッキー描いたんだ。あとミニーちゃんも。」
それを聞きながら、
そうか、昨日の夕飯、駅前に新しくできたからあげ屋で買ってみたのか、
とか、
あー、先週末ディズニーランド行ったもんね、
とか、思う。
思っているうちに、ついまた、まどろむと、
うたは、ぐいっとわたしの瞼をこじ開け、話し続ける。
片目だけ、ひんむかれた状態で聞く。
「ママ、きのう夢でうたちゃんに会った?」
うーん、かわいい。かわいいぞ。うたちゃん。
でも残念なことに、夢にこどもが出てくることは、ほとんどない。
夢の中のわたしは、たぶん今より10歳くらい若い。
豪速球を投げたり、
言い寄られていい気になったり、
激しく壁をよじ登ったり、
している。
何なんでしょうね。
現実には、そんな壁を感じたことはないのだけど。
そんなに起伏に富んだ人生ではないのだけど。
あ、一度だけ、壁にぶつかったことがあった。
そうそう、壁にぶつかった。
三鷹駅の壁だ。
ちょっと急いでいて、一段抜かしで階段を下りていた。
急がないとバスが来ちゃう、とかそんな理由で。
途中、踊り場を挟んでの、長い階段だった。
勢いよく下りていった。
スピードにのる。
早い、早い、
早い、早い、早い、早い、
すごいスピードだ。
あれ、でも早すぎない?
早すぎるよね。
止まらない、止まらない、止まらないよーーーっ。
そうだ、転べば止まる。
転んじゃえ、転んじゃえ。
でも、なぜかその時ばかり踏み外すことも転ぶこともなく、
やたら上手に一段抜かし、いや、それ以上抜かして、
一気に階段を駆け下りた。
周りの人たちが、アイツ早いなーという感じで、こちらを見ていた。
で、激突したのだ、壁に。
バン!て。
もし、この先、壁にぶち当たることがあったとしても、
なんとなく、あの壁よりはやわらかい気がしている。
なんとなく、受けて立てる、という妙な自信でいる。
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