リレーコラムについて

♪ S・O・S

横田亜矢子

♪ S・O・S S・O・S
ほらほら呼んでいるわ
今日もまた誰か 乙女のピンチ ♪

(続き)

ほらほら、呼ばれている。

信念が決まった翌日、
別の部署の先輩から呼び出された。
いつもふんぞり返っている怖い先輩だった。
あの依頼だ。

それは、ニセの給料明細書作成だった。

先輩はお小遣いを減らされ、
第2口座への振り込みをこっそり多くしていたのだが
奥さんにバレても嘘を突き通せるように用意していたものだった。

当初、お小遣いが少ない事に同情し
軽い気持ちで引き受けたが、
ふと、我に返ると疑問が出てきた。
まだバレてないのに用意周到すぎる。
奥さんはそんなに怖い人なのか。
そのお金は、何に使っているのか。
浮気しているのか。
それとも夜の蝶に消えていっているのか。
まさか変な趣味が…。
謎は深まるばかり。

考えれば考えるほど
奥さんへの罪悪感で一杯になり
やりたくなかったのだが、
断るタイミングを逃していたのだ。
だが昨日「嘘をつかない」と言う信念が決まった。

今日こそ、断ろう。

決意を固め、呼び出された会議室に行く。
先輩が入るやいなや切り出した。
もう作りたくないこと、
先輩に協力したいが
奥さんを騙すようなことはしたくないこと、
どうしても自分の信念が許さないこと、
その信念は昨日決めたばかりのものだという以外は
素直に打ち明けた。

・・・

私の主張が終わると、シーンとした。

・・・

あれ、何も言ってこないの?

迫力があり、弁も立つ。
口喧嘩選手権があれば、間違いなく1位になるであろう彼なのに
なぜ黙るのか!?

怒られるか、説得させられるか、
色んなシチュエーションを想定して、
どう対応するか準備までしていたのに。

無言になるとは思ってもいなかった。

沈黙が緊張感を果てしない所まで高めていく。
やっぱり逆らってはいけない人だったんだ、
とんでもないことを言ってしまったと後悔が押し寄せ、
血の気がササササーと引いていった。
やっぱり前言撤回しようかな(←信念がなさすぎる)と顔を上げると、
意外な顔になっていた。

笑いを堪えていた。
そして、堪えきれなかった笑いがこぼれてくる。

ハハハ!

鬼が笑ってる。
声を出して笑ってる。

意外にもあっさりと理解を示してくれたのだ。
もう頼まないから安心しろ。
思いつめた顔をしていたから心配したぞ。
奥さんはまだ第二口座に気づいていないから
見せてない。
だからお前はまだ嘘ついてないぞ
そんな事を言ってくれた。

ホッとした。
鬼がいきなり優しくなったからか、緊張が解けたからか、
ホッとした。

全身の力が抜け、
「なんだー、もっと早く言えば良かったじゃん!」と
思わずタメ口がでてしまい、
またピンと張りつめた空気になったのだが、
それもいい思い出。

と言う事で、
私は幸いにもまだ
信念に反すると言う理由で
仕事や物事を断った事がありません。
思い返すと、幸せな環境にいるんだなぁと
コレを書きながら気づきました。
ありがとう、リレーコラム。

ちなみに、その先輩。
第2口座の浮いたお金で、
私たちのような後輩を飲みに連れて行ってくれていた
と気づくのはもうちょっと先のお話。

以上、ゆるく書いてきたコラムは、今日で終わりです。
お付き合いいただき、ありがとうございました。

-(次回予告)————————
さーて、来週のコラムは
仕事でもお世話になっていて
この夏、一緒に富士山に登った
長谷川智子さんに依頼しました。
お願いします!

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