北の国から その2
やっとバトンを受け取れて一安心なのですが・・・山田さん、今度は香港で革命に参加してたんですってよ、あらぁ心配ねぇ毒舌が。そんな山田さんからバトンを貰った94年入会の井村光明です。あらためまして、よろしくお願いします。
そんな山田さんと塚ちゃん、3人で行った北の話の続きです。僕らが男2女1で行ったせいか、北のガイドさんも男2女1体制でのお出迎えでした。
「私は長く横浜に住んでおりました」という50歳くらいの男性・金(キム)さん、最後まで一言も喋らなかった目つきの鋭いドライバーの男性、そしてもう一人、女性がいました。今回のヒロイン、黄(ファン)さん。
ファンさんは平壌外語大学日本科を卒業したばかりの24歳の女の子。朝鮮旅行局に入ってまだ1年の新人ガイドさんでした。さしずめ、男性のキムさんとトレーナー・トレーニーのOJT期間中という感じで、僕らにいろいろ説明してくれるのは、もっぱらファンさん。黒いリクルート風スーツで、日本のタレントでいうと・・・残念ながらそういうことではないのですが。けど、初々しいからまあいいか 笑。でも日本のタレントより日本語はペラペラ。
僕 「ファンさん、日本語上手ですね」
ファンさん「うれしいです。良いガイドになるために、一生懸
命日本語を勉強しました。・・・でも、最近は共
和国と日本の間に政治的な問題があることから、
あまり日本のお客さんが来てくれなくて、とても
残念です。」
そこで突然平和を破るのが、山田さん。
山田さん 「それは、核兵器とか持ってるからですよ(笑)」
ハラハラする僕と塚ちゃん。
すると、
ファンさん「それは仕方がないのです。朝鮮戦争は休戦状態
で、まだ終わってはいません。そして、南(韓
国)には核兵器を持ったアメリカ軍が今もなお駐
留しているのです。共和国には中国軍もロシア軍
もいません。誰も助けてはくれません。自衛のた
めに、持たざるを得ないのです。」
と、ファンさん24歳は、毅然として、しかも理路整然と、言うのです。「誰も助けてはくれないから、持つのだ」と。そして、その様子を見ているトレーナーのキムさん、目を細めているように見えました。元々目が細いので定かではないですが。そんな度、話題、他に明るい話題はないか、と僕と塚ちゃんの目は泳ぐのでした。
昨日のコラムから続いてこう書くと、一触即発の殺伐とした旅行のようですが、こんな状態はたまのこと。ほとんどの時間は楽しくなごやかなものでした。山田さんの名誉のためにも付け加えておきます。とはいえ、旅行はたったの4日間、たまのこととはいえ、数時間に一度は臨戦状態になってたことになりますが 苦笑。
そして、こんな会話へと続きました。
山田さん 「日本語はどうやって勉強したのですか?」
ファンさん「教科書と、日本語の先生から教わりました。」
僕 (日本語の先生?日本語の先生?!や、やばい、また山田
が暴発する!)
が、この時は、山田、スルー。車内に広がる僕と塚ちゃんの安堵感。
ファンさん「あと、マンガの映画も見ましたよ。「千と千尋の
話」とか、「ドラえもん」。「ドラえもん」面白
いですねぇ。好きでした。」
山田さん 「オバケのQ太郎とかは?」
すると、
ファンさん「?? 「太郎」は名前ですね?「オバケノキュ
ー」とは何ですか?」
ファンさんは「おばけ」を知らなかったのです。「幽霊」は知っていたので、「主に子どもが使う、幽霊にかわいいニュアンスを付けた言い方だよ」と教えてあげると、ファンさんはペンとノートを取り出しました。
「おばけ おばけ おばけ」とひらがなで書いて、「こうですか?」と見せてくるのです。しかも書き順も正確。
余談になりますが、昔ペルーに行った時、「俺は日本語を書けるから、見てくれ」という少年と会いました。その少年は、まず○を書いて、その左下にもう一つ○を書きます。「??」と見ていると、その間に何本か線を書いて「PA!」と言ったのです。ひらがなの「ぱ」でした。なるほど~万国共通の○の形から覚えるのか、と面白く思ったのでした。ちなみにこの余談は伏線で、後に似たような奴が出てきます。が、ファンさんは正しい書き順で、何度もつぶやきながら練習していきました。
「おばけ、おばけ、おばけ・・・」
すると、
「あっ、みなさん、あちらを見て下さい!怖いおばけがいます
よ。」
見ると、そこにはトレーナーのキムさん。
「あ、キムさんでした。怖い顔なので間違えてしまいましたね
~(笑)。おばけ、の使い方合ってますか?」
僕らを笑わせようと、おどけたのでした。
「傀儡政権」とか「非武装地帯」という単語はすらすら出てくるのに、「おばけ」は知らなくて何度も練習するなんて。ファンさん、なんだか、可愛いなあ。一方で、「核兵器」等の話題で垣間見る、真に自立している人間としての強さ。
そんなファンさんを見ていて、ふと、思ったことがありました。もし僕がJTBの添乗員で、領土問題のある隣国のお客さんに付いたとして、お客から「お前、あの島はどっちの領土だと思ってるんだ」と訊かれたとしたら、どう答えるのだろうと。おそらく、「国と国の問題は難しいですよね、僕もこういう仕事ですから、お気待ちは解ります~」などと、さも自分は部外者であるかのように、波風立てぬよう曖昧にするんだろうなあ・・・。
でも、目の前の24歳の北の女の子は、気を遣いながらも恐れず誤魔化さず、はっきり自分の意見を言っている。
しかも、「誰も助けてはくれません」と、非情な現実を受け止めながら。
なんて、健気なんだ・・・
カリオストロの城のクラリスのよう。
全く似てないファンさんでしたが。
そして僕は、逆境なのに、グチも言わず、一生懸命、笑顔でがんばる、そんな女の子を好きになる傾向があったのでした。
毎度ですが、政治的・思想的意図や個人的事情は全くありません。ただの旅行記ということでご容赦下さい~それではまた明日。