水曜どうでしょう
「家では何をして過ごしていますか」
と聞かれたら、
私は決まってこう答える。
「水曜どうでしょうを見ています」と。
水曜どうでしょう。
それは北海道テレビ制作のバラエティ番組だ。
大泉洋がブレイクするきっかけになった番組と言えば、
ピンと来る方もいらっしゃるのではなかろうか。
私は小6から高3までの間、
毎週水曜の深夜、この番組を見るためだけに起きていた。
木曜の授業で居眠りばかりしていたのはそのためである。
「寝るな大津!」
「すみません!昨夜は水曜どうでしょうを見ていて」
「水曜どうでしょう、だと?」
「はい」
「なら早く言え。あれはいい番組だ、先生は釣りバカ企画が好きでな…」
北海道で例外的に木曜の居眠りが許されていたのも、
この番組のおかげである。
それくらい絶大な人気を誇っていたのだ。
そして私はこの番組を今なお見続けている。
レギュラー放送は12年前に終わっているにも関わらずだ。
ここで誰も興味がないであろう
私の一日について紹介する。
朝。
アラームのスヌーズ機能でようやく起きる。
枕元のiPadで時刻を確認し、
どうして俺はこんなにダメな人間なんだろうと
絶望的な気持ちになる。
暗い表情のままカーテンを開け、
テレビの電源を入れ、DVDデッキを起動する。
水曜どうでしょうが流れ出す。
洗面所にまで聴こえるように音量を上げる。
シャワーを浴び、身支度を整える。
水曜どうでしょうを止める。
家を出る。
ちなみにお気づきの通り、
私は水曜どうでしょうをもはや
見るというか聴いているのである。
あまりにもくり返し見続けたので、
音声さえ聴き取ることができれば
映像は頭の中で再生できるようになってしまった。
それでは続けよう、私の一日を。
家を出た私は水曜どうでしょうを聴きながら
電車に揺られ会社へ向かう。
仕事中は水曜どうでしょうを
見ることはおろか、聴くこともできないので、
一時的に水曜どうでしょうから離れることになる。
一日で一番つらい時間がつづく。
ただ、番組スタッフブログは読んでいる。
(番組終了後もブログが更新されているのだ!)
仕事が終わると、また電車に揺られ家へ帰る。
もちろん、水曜どうでしょうを聴きながら。
家に着くとリビングの電気をつけ、カーテンを閉め、
テレビの電源を入れ、DVDデッキを起動する。
水曜どうでしょうが流れ出す。
風呂に湯を張る。
風呂が沸く。
iPadを持って風呂へ。
もちろん水曜どうでしょうのデータが大量に入ったものだ。
水曜どうでしょうを見ながらの入浴は最高である。
かさついた心まで、ふやけさせてくれる。
すっきりしたところで風呂を出て寝る支度をする。
テレビを消し、ベッドに潜り込む。
枕元にiPadを置き、
水曜どうでしょうを子守唄代わりに眠りにつく。
そして朝、絶望的な気持ちで起きる。
こんな生活が長く続いている。
高校時代、野球部の友人の家に泊まりに行ったときの話。
おいしい夕食のあと、その家のお父さんが
おもむろにテレビをつけて、ビデオを流し始めた。
聴き慣れた音楽がリビングに響き渡った。
水曜どうでしょうのオープニングソングである。
お父さんは振り返り、満面の笑みで、
「俺、これ4回目」と、
アーネストホーストの
「アイムフォータイムスチャンピオン」
ばりに、堂々と指を4本立ててそう言った。
高校生の私は、まだ若く、
「大人が何度もこんな番組見ていて大丈夫なのか?」
と友人のお父さんのことを心配したものである。
さて、大人になった私は、である。
もう何度くり返し水曜どうでしょうを見たことか。
おそらくアーネストホーストどころの比ではない、
具志堅用高、いや吉田沙保里の優勝回数に匹敵するはずだ。
ふと寒気に襲われた。
私はこのままで大丈夫だろうか、と。
そこで例の友人に連絡をとった。
お父さんはその後どうなったかを聞くためだ。
彼は言った。
今も元気に暮らしている、と。
仕事も順調で役員に昇格したらしい、と。
聞いたか諸君、もう安心である。
私もおそらく健康であり続ければ役員にはなれそうだ。
それまでクビにならないように、
早くコピーを送らなければ。
催促のメールが怖くてメールBOXは開けない。
今夜もまた〆切りにおびえている私であった。
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