Erase The Past
その日ピッチには、
幻のファンタジスタが立っていた。
中2のとき惜しまれながらサッカー部を辞め、
それ以来極端にサッカーを避けてきた男。
学校の休み時間に「サッカーしようぜ」と誘われても、
かたくなに拒否してきた男。
そんな男、秋田がクラスのピンチに立ち上がったのだった。
なにせ高校3年のクラス対抗球技大会、サッカー部門である。
3年7組はサッカー経験者が少なく、下馬評は最下位。
最初は固辞していた秋田も、
クラスメイトの熱烈な要求に折れ、出場せざるを得なかった。
人間不思議なものである。
クラスメイトたちはなぜか
4年前にサッカー部にいただけの、
秋田の実力を信じていた。
秋田の出場が、弱小チームに届けられた
数少ない明るいニュースに思えたのだろうか。
三顧の礼で動いた諸葛孔明の姿でも重なったのだろうか。
うっすらとした期待感が、そこにはあった。
そして周りの空気を感じとった他ならぬ秋田自身も
「オレは伝説をつくるかもしれない」という謎の自信を抱いていたのだ。
「ピピーーーー!」
試合開始のホイッスルが鳴り響く。
…
…
…そこから先の試合内容は覚えていない。
というか、きっと思い出したくないから
記憶に鍵がかかっている。
うっすらと脳裏によみがえるのは
ボロボロに負けた試合………
幻のファンタジスタ秋田が
2回連続ファールスローをして、
クラス中から白い目で見られたこと………
その時はじめて
「あぁ男子校でよかった」と強く思ったこと………
Write The Futureの正反対みたいな試合だったなぁ。
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