リレーコラムについて

BARリリー

渡辺裕之

と言っても、
リリーフランキーさんのお店ではなく、
リレーコラムのバトンを渡された山本さんに
去年連れて行ってもらったリリー(lily)という名のお店です。

場所は、新橋と虎の門のあいだ、内幸町の駅近く。
外観はレンガ造りで、バーというよりは純喫茶のよう。
でも店の扉を開けると・・・

どこまでも薄暗い店内、あやしげに光るブルーライト、
ウッディというより、長い年月が生み出した
独自の風合いと光沢を放つカウンターやテーブル。
まだ東京にこんな場所があるんだ、
レトロなんていう言葉では片付けたくない
入った瞬間に昭和のはるか昔にタイムスリップする、
そんなバーでした。

カウンターの中には、かなりのご高齢のマスターが一人。
その方がおひとりでお店のすべてを取り仕切っている。
こんな年齢のと言ったら大変失礼だが、僕の倍以上の歳を重ねているような人が
猫背になりながらも、黙々と仕事をこなす姿には感動をおぼえました。

もちろんそんなリリーの時間はゆっくりと流れています。
マスターがつくる水割りやハイボールも美味しい。
いまどきのお店にはない静かで落ち着いた雰囲気は、
まさに都会の喧噪を忘れさせてくれる貴重な空間です。
こういうお店こそずっと残ってほしい。港区の重要文化財に指定するべきだ。
なんてことを思いながら、マスターまた来ますと店を後にした。

いまのオフィスが虎の門にあることもあり、
その後もリリーの前を歩いて通ることがたまにあった。
夜には窓越しにうっすらと滲んだ明かりが見え、
あ、今日もやってるんだな、また行かなきゃなと思いながらも、
なかなか再訪することができずに数ヶ月がたってしまった。

そうこうしているうちに年が明け、
先日またリリーの前を通る機会がありました。
今年こそは行かなくてはと思い店を見ると、扉に何やら貼り紙がしてある。

「閉店のお知らせ この度、店主の突然の他界の為、閉店を致します。
永きに渡りましてお客様皆様方にご愛顧頂きました事、
心より感謝申し上げます。誠にありがとうございました。親族一同」

えっ、そうなの?マスター亡くなっちゃったの?
また来ようと思ってたのにそれは許されないの?

きっと僕みたいな客より、
多くの常連客の方たちが、このことを悲しんでいるのだろう。
店の前には、ユリの花束がいくつも置いてありました。

もうリリーでウイスキーを飲むことはできない。
でも、あの映画のセットみたいな素敵な空間で一晩を過ごせたことに感謝します。

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