リレーコラムについて

入試部長、組合書記長、弓道部長。

難波功士

 前回・前々回は、私の研究内容ないしは教務(の中でも講義科目)についての話でした。教育に関して言えば、他にも学部のゼミもあれば、大学院のゼミで指導教員として接している院生・研究員たちもいます。
 学部の方のゼミは、今は、鈴木君の頃のように「サブカル自慢をしあう」こともなくなりました。そんな学生自体、減りましたし。最近では、企業にご協力いただき、課題をちょうだいし、学生側が考えた案(とそのプレゼンテーション)に対して、宣伝関係部署の方などからご講評・ご指導いただく、なんてこともしています。
 実は今日、学生2名を連れてマンダム社を訪れます。例年、オリエンを受けた後は、空堀商店街へと流れます。

 繰り返しになりますが、大学の専任教員の三大業務は、研究・教育・校務です。
 今回は、まだふれてなかった校務その他について。

 大学の中には、さまざまな役職があります。もちろん、大学職員が就くものも多いですが、教員にもなにかしらの役職・役務が回ってきます。私の場合、まず学部の学生主任などやりました。高校で言えば、進路指導や生活指導の先生って感じでしょうか。
 そして、大学全体の入試部長というポジションに、3年間いました。当然、大学入試の運営・実施に関して責任を負います。最大の敵は、なんといっても出題ミス。新聞沙汰になりますし、文科省に逐次報告しなければなりません。さらに入試実行上のトラブルも、なにかしら生じます。朝起きたら大雪だ、列車の遅延だ、試験監督要員がインフルエンザだ、さらには乗る電車を間違えた受験生が泣きながら電話してくるetc. 
 また、入試広報も担当しているので、受験者数が少ないと、若干肩身が狭いです。入試部長。まじめな人がやれば、1年で胃をこわすような仕事です。でも、私は根がいい加減な人間なので、へらへらと3年務めました。大過なくとはけっして言えないですが、勤務先に致命傷までは与えずに済みました。

 それから大学の役職ではないのですが、教員組合の執行部に1年間いて、書記長と呼ばれたこともありました。理事会(経営側)との団体交渉なんかでは、矢面です。要求はまったく通らなかったけど、こちらも大過なく務めたと思っています。
 組合やってよかったのは、他学部の先生と仲良くなれたこと。任期が終わっても、執行部メンバーで同好会を立ち上げて、時々集まっています。
 大規模な総合大学の場合、「学部間の壁は、会社の部門部署間の壁よりも高い」というのが一般的です。学部を超えた人間関係ができる機会は、一つには大学全体の運営にたずさわった時、第二には組合の執行部に入った時。そして三つ目はというと、体育会に関わった時です。
 この春から、私は弓道部の部長というものになりました。もちろん監督やコーチが、他にちゃんといての話です。私に競技経験は皆無です。ルールすら、よくわかっていません。でも、体育会の部活には教員部長がマストなので、種々の事情で就任しました。こちらも会合への出席等、もろもろ仕事はあります(キャンパス歩いていると、弓道部の子にいきなり大声であいさつされて、ビビります)。

 名刺にコピーライターという肩書が刷り込まれて頃から考えると、ずいぶん遠いところに流れ着いたものだと、われながら思います。
 ですが、会社員をやったこと、とりわけ人との打ち合わせが多い職種をやり、突発的な事故や緊急事態がよくある職場にいたことは、今でもけっこう、校務に関しては役立ってる気がします。大学教員の多くは、研究一筋で生きてきたので、学内・学部内での会議においても、学問的・学会的な論争モードに入ってしまい、どちらが正しいのか、何が真理なのかと考えがちです。そして、処理するというよりも、評論するスタンスで、事態に接してしまいがちです。「だから、オレは最初から○○だと思ってたんだよねぇ」みたいな(あっ、でもこういうタイプ、ビジネスの場にもいた!)。
 校務の多くには、絶対の正解などありません。どちらがよりましかの選択を重ね、誰かが個別具体的に判断・対処していくしかないのです。より妥当な対応策を見つけ方、落としどころを迅速に探るノウハウ、口よりもまず手足を動かそうとする習性などは、一度社会に出たおかげで身についたようです。他の教員よりも校務を苦にせず、サクサクとこなせています。でも、そこでがんばって、学内の役職ヒエラルキーを上るつもりもありません。最低限の仕事は引き受け、つつがなくこなすくけど、あまりそこで時間を取られ過ぎるのもなぁ。
 研究・教育・校務。それぞれバランスよく。でも、どっかで強みは持っておかなくては(少子化の昨今、大学の閉校や大学教員のリストラも、もろもろ起こり始めています)。私の場合は、アカデミズムに立てこもらない(立てこもれない)タイプの教員というあたりが、特長だと思っています。
 だから、お座敷がかかれば、どこへでも。そして、ここへも。

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