うんこ
言葉は言葉としていきなり生まれてくるわけじゃないよね。
何かしら、胸に、こう、漂うものがあって、
そいつがいつしか無視できないような在り様となる。
で、その胸の赤赤黒黒とした想いが器官を通して表出する。
想いにいちばん近いであろう、言葉というものに置換して。
しかし、こんな手順は、日常考えないで言葉を発しているのだけれど。
長い生活で慣れ進めているさまざまな行動様式のように。
風呂でカラダを洗う無意識の手順のように。
でも、どうにもならんことがある。
さらさらと言語化してそれですむような生半可な状態ではない想いが
胸の辺りに充満し重くて破裂しそうな質量で増幅増幅して。
おれ、狂ってしまうんじゃないか?
もう、「あ」も、「い」も、「う」も、「え」も、「お」も、役に立たない。
この、どうしょうもない想いの凶悪なカタチを、
そこんじょそこらのお手軽ことばというカタチで流されてたまるか。
「うんこ」と、オレは吐出した。
「うんこ」と、口から出したのだ。
と、ウケたのだった。
「うんこ」を、口から出したのに。
「うんこ」を、じつに攻撃的に射出したのに。
世間なんて信用できないね。
殴りかかってこないんだもの。
みんな、人の良さそうな顔して笑っているんだもの。
こうして、おれの「うんこ」は流されてしまった。
ギャルズバーを出るとき、店の女性が言った。
「ナカハタサン、今日は18うんこでした」
メモ用紙に正の字が並んでいた。
今夜は、ここで、うんこを18回出したらしい。
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