リレーコラムについて

伸びるための動機

小川祐人

恋愛の話をします。

と言っても、主題はそこにはありませんが。

高校二年生のとき、僕の席の前に好きな人が座っていました。

受験や進路を考え始める、冬のことです。

当時の僕は、クラスで「頭がよさそうなキャラ」でした。

と言っても、ただ寡黙で、メガネをかけていて、
何となく定期テストの点がよかったからそう見えていたのかもしれません。
公立高校だったので、その「頭のよさ」も、たかが知れています。

でも、その子から見たら、勉強ができそうな人。

休み時間のたびに席を振り返り、僕に聞いてくるわけです。
その子が分からない問題を。

当時の僕は(今もそうですが)、
自分から女子に話しかける、なんてことはできず、
むしろちょっと話しただけで顔が暑くなり、脇から汗がふき出てくる、
という男子でした。

そんな僕にとって、その女の子、しかも意中の子に、
ごくごく自然にコミュニケーションを取れるその時間は、
何にもまして貴重だったわけです。
楽しかったわけです。

ただ、ひとつの問題を除いては。

当時、その子は理系で、僕は文系でした。

つまり、彼女からの質問は、数学と理科だったのです。

そしてその頃の僕は、絶望的に数学と理科ができない高校生でした。
テストで一桁の点数を取っていたくらいです。

数学も理科も苦手。

それでも、その子にとって僕は、頭がいい頼れる人。
そして、勉強を教える時間が、唯一その子と関われる時間。

その時僕がとるべき行動は、一つでした。

理数科目を勉強するわけです。

予習復習、完ぺきにこなして、
どこから聞かれても答えられるようにするわけです。

その子に振り返ってもらいたい、頼れる人でありたい、とただただ願って。

そんな状態が、数ヶ月続きました。

驚くべきことが起こりました。

数学が、得意科目になったのです。
ついでに、他の科目もいつ聞かれてもいいように励み、得意になったのです。

どれくらい得意かというと、
模試で数学の偏差値を90近く叩き出せるようになっていました。

総合科目では全国一位、総合偏差値は95くらいになっていました。

そして本番のセンター試験では、数学、理科(地学)が満点で、
2次試験もクリアし、無事志望校入学できたわけです。

で。

恋の方はどうなったかと言うと、
ちょっと調子に乗った僕は、その年の冬、思い切って告白してみました。
ちょうどクリスマスのシーズンだったと思います。

まぁ、ふられますよね。

あっさり、ふられました。
典型的な「お友だちでよろしくお願いします」という回答をいただきました。

勉強だけじゃだめなんですね。

当時の友だちに「失恋にはGLAYだ」と教えられ、
音楽にまったく疎かった僕がひたすらWinter Againを聴いていたのが
ちょうど13年前の今頃です。

長くなりましたのでそろそろまとめます。

何が言いたいかというと、
人は「モテたい」と思うとものすごい力を発揮することがある
ということです。

ただその子に振り向いてもらいたいという
ピュアな動機で、僕は気づけば夢中になって勉強をしていたわけです。

多分あの子がいなかったら、今の自分はいなかったはずです。

この「モテたいから」という動機を、
あらゆる悩み・課題に掛け合わせることで、
効率的なソリューションが生まれるのではと思うのです。

今、論理が飛躍しました。

例を挙げます。

モテたいから × いいコピーを書く。

モテたいから × 目立つ仕事をする。

モテたいから × 早起きする。

モテたいから × 運動する。

モテたいから × 部屋をきれいにする。

いささか、掛け合わせる先が卑近すぎましたが、
やりたくないことをやりきるモチベーションとして、
「モテたいから」という視点の導入は効果的だと思うのです。

「どうすれば、いいコピーが書けるのか。
 どうすれば、女の子にモテるのか。
 僕の頭の中には、この2つしかありません。」

これは、1994年、磯島さんの新人賞受賞時の年鑑記載コメントです。

磯島さんもそう言うのであれば、
これはもう、一つの真理である気すらします。

先日、磯島さんに、これについて飲みの席で質問したことがあります。

すると磯島さんは、

「そんな時代もありましたね」

と、マティーニを傾けながらお答えになりました。

んー、かっこいい。

磯島さんが今もそのモチベーションをバネにしているのか、
あるいはそうでないのかは結局分かりませんでしたが、
少なくとも僕はあと5、6年は「モテたい」をバネに
仕事をしているような気がします。
(ここでのポイントは、モテてしまうとこの公式が成立しなくなるということです)

ネタがないので勢い余って自分の恥部を晒してしまいましたが、
この文章を高校時代の友達が読まないことを心から祈ります。

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