リレーコラムについて

理不尽な大人になろう

境治

最近、事あるごとにいろんな人に言ってる話なんですけどね。

ぼくの自宅は駅近くのマンションで、1階がコンビニになっていて、さらにその向かいが公園で道路に面してベンチが並んでいます。そこはお年寄りが足を休めたり親子連れがアイス食べたりするほのぼの空間なんですけど、時として中高生のたまり場と化します。茶髪にピアスの連中がたまってるだけでぼくなんかぶん殴りたくなるんですけど、さらにムカつくのが、彼らは平気でタバコを吸う。目の前を大人が行き来しても小学生がらんらんスキップしてても平気で吸うんです。幼稚園児の父としては自分の子に「あのくらいのお兄さんになったらタバコを吸っていいんだー」と思ってほしくないんで注意しました。「おまえら何年生だ?」「はあ、えっと中二っす」「ナニ?中二がタバコすっていいのか?」と、「うるせえな、おっさん」を覚悟してキツく言うと、意外にも「はあ、すいません」と慌ててタバコを消すのです。「なんだと?」と食ってかかるやつなんていません。まあこれは、ぼくの風体が見方によってはテキ屋にも見えるからビビってんのかもしれないけど、あまりに軟弱な反応でびっくりしました。

ぼくの常識では、ティーンエイジャーのタバコは悪いこと。だから大人の前では吸わないか、吸うやつは「おれは不良だぞモンクあるか」という姿勢で吸う。そうあるべきだと思うんですよ。で、ぼくが注意した連中は茶髪でピアスでも「不良」というほどのワルではないみたいなんですね。わりと、ごく普通の少年。だからぼくに言われるとやめたんだと思うんですけど、だったらなぜ大人がいるのに吸うのか、陰でこっそり吸わないのか、ぼくにはわかならない。トイレとか校舎の陰でとか夜中に自分の部屋とかで、見つかったらどうしようとびくびくしながら火をつける、それが健全な中高生のタバコの吸い方だと信じていままで生きてきたんですが、いまはそうじゃないらしい。

「おまえらいいのか?」と問い詰めると「でもお母さんはいいと言ってます」とか「学校では先生も何も言わない」とか言うんです。こういうときに「お母さん」が出てくるのも情けない話ですが、子供がタバコ吸ってても注意しない親や先生が増えているのでしょうか。

親とか先生とかは反動的でいいと思うんですよ。頑固に「ダメだからダメだ!」という姿勢。法律で決まっているのはわかるけど、オヤジも吸ってるのになぜ子供が吸っちゃダメなのか。ティーンエイジャーがそんな思いを持ち、それに対して「子供だからだ!」と理不尽に返答をする。それが正しい大人じゃないでしょうか。もちろん、正しい大人が理不尽さをふりかざすためには、常に堂々としていなきゃいけない。子供の前では弱さや情けなさを微塵も見せない。ちぇっ、オヤジは理不尽だけどなんだかかなわねえや。そう思いながらやがて成人し社会に出て、オヤジが隠していた弱さや情けなさも見えてくる。ああ、オヤジも弱いし情けない男なんだと気づく。それが美しく大人になるということじゃないでしょうか。

中高生がモラルを失っているのは大人がモラルを失っているからなんです。大人の中でもいちばん正しく生きているはずの人々が汚職だ債務隠しだとやっているから。それはひいては世の中の大人すべての責任であり、あなたのせいでありぼくのせいだ。

だからぼくは、理不尽な大人になろうと思います。理不尽さをびゅんびゅんふりかざして、それでもなんだかかなわないなと子供が思ってしまうような強さと美しさを持つ、誇りある大人になろうと思います。

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