リレーコラムについて

離見の見

安藤宏治

「離見の見(りけんのけん)」という言葉がある。
能の心得として世阿弥が説いた言葉で、「己の芸は、観客の目で見なさい」という意味。

物をつくる者=クリエイターは、よく、客観性を持てと言われるが、
これがなかなかどうして難しい。世阿弥は離見の見の具体的なやり方として「目前心後」という言葉も使っており、「目は前を見ていても、心は後ろに置いておけ」と言うのだ。
「後ろ姿を覚えねば、姿の俗なるところをわきまえず」
なるほど。背中から自分の立ち居振る舞いを見て、生き方や仕事っぷりが恥ずかしくないか見極めよというわけか。

時に観客の目で、時に背後からの目で、もしかしたら時に上空10mくらいまで浮かせた真俯瞰からの目で、自らを眺めていたであろう世阿弥。ドローン並に視点を自在に操るこの技を身につけられれば、自分も無敵になれそうな気がする。

競合プレゼンでは得意先の視点になり代わり、無敗街道をまっしぐら。
会社では時に上司の視点に、時に部下の視点になり代わり、中間管理職として絶大なる信頼を獲得。
広告賞だって、審査員の視点になり代わり、もう獲り放題。

広告の仕事をしていて、何か身につけたい技術がありますか? と問われたなら、
迷わず「離見の見」と答える。しかし、これがなかなか身につけられないために、競合も連戦連勝とはいかないし、簡単に出世できないし、たまにいい成果を残しても、すぐに凡人に帰ってしまう。
世阿弥を目指すも、元の木阿弥。
こっちが等身大の自分に近いのかもしれない。

3回にわたり、ためにもならぬ雑文ばかり。ほとんど広告に関係のない話で恐縮ですが、読み返してみると偶然にも「視点」というテーマで貫かれていたようで。自分の関心事として大きなウエイトを占めているんだなと感じ入る次第です。
さて、次週は「広告オタク」を自称する、ホンシツの斉藤賢司さんにバトンタッチします。確実に皆さんのお役に立つ「広告よもやま話」が聞けるはずです。乞うご期待!
(ケンちゃん、ハードル上げといたからね。ニヤニヤ)

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1764 2006.09.01 わかりにくい例え
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