リレーコラムについて

「センテンススタイル」

佐藤舞葉

さて、前回に引き続き文春…もとい文体の話です。私が文体を意識した二回目というのが村上春樹で、実は2年ほど前まで村上春樹を読んだことがありませんでした。初めて読んだのは「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」という本です。(村上春樹好きに言わせると、彼の作品のなかではイマイチらしいですが)読んだきっかけは、アマゾンの書評「孤独なサラリーマンのイカ臭い妄想小説」です。
軽くバズったのでご存知の方もいるかもしれませんが、要するに村上春樹のオシャンティな世界にことごとくツッコミを入れる、というもので、この方の書評がなかなか面白かったのです。例えばこんな感じ↓

だってあれだぜ。ラストで恋人からの電話を待ってる時にオリーブグリーンのバスローズきてカティーサークのグラス傾けながらウィスキーの香りを味わってんだぜ? オリーブグリーンってクソ緑だぜ? 趣味悪くね? そんで「孤独だ・・・・」とかつぶやいてんだぜ? 石田純一なの? 孤独ってこんなオシャレだっけ? 

それで興味をもって初めてHARUKI MURAKAMIを読んでみることにしたのですが、読んでみたら、面白かったのです。確かに主人公はオリーブグリーンだかビリジアンだかのバスローブを着て、およそ日常からは程遠いキザな生活をしているのですが、それは気にならないです。村上春樹はストーリーや共感性で評価されているのではなく、文章の美しさが素晴らしい作家なのだとわかりました。まあ、一冊しか読んでないんですけど。全く同じ内容が書いてある書評と村上春樹の文章を比べてみて、村上春樹のもつトーン&マナー、すなわち「文体」というものが稀有の才能の作家なのだと知りました。「文体」という言葉を意識するようになったのもこの頃です。ちなみに、英語を日本語に訳したような文章にすると村上春樹の文体に近づけるらしい。これはご本人が言っていたことです。

最近、おとぎ話ブームと言われているのですが、実は「文体」ブームなのではないかと思います。「意識の高い桃太郎」から「もしL’Arc-en-CielのHydeがラーメン屋をはじめたら」といったものまで、流行っているのは「文体いじり」です。フォーマットをいじるのはみんな好きで、要はモノマネの文章版なのですが、今までモノマネは特殊な能力のある人しかできなかったけれど、テキストに降りてきたことで、センスのあるひとなら誰でもできるようになった、ということだと思います。

私も、作家さんの文体を習得して、いっちょ「文体モノマネ芸」でも磨こうかしらんと思いましたが、「村上春樹が書いた桃太郎」ではいささかハイコンテクストすぎて一般受けするかが心配です。

ちなみに、今回の文章は、
メキシコシティのホテルでマゼンタピンクのリネンワンピースを着ながらマルガリータを二杯味わった後に書いています。本当です。春樹オマージュです。

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