雨と油絵とサンバ
突然ですが、
みなさんは、雨に降られながら油絵を描いたことはありますか?
私はあります。
あれは、大学一年の冬のこと。
某美大の油画科に在籍していた私は、
仮面浪人をして某芸大の油画科を受験していました。
分厚い雲に覆われた空の下、実施された二次試験。
会場は、なんと上野動物園でした。
「園内の好きな場所で、自由に油絵を描きなさい」
それが、出題された課題です。
行楽に来ていたお客さん達の冷ややかな視線を受けながら、
次々と動物の檻の前に陣取っていくボロボロのつなぎを着た受験生たち。
今すぐにでも逃げ出したい気持ちを抑えて、
なんとか半分ほど描き上げたころでしょうか。
突然、ポツ、ポツと雨が降ってきたのです。
よく、反発しあう関係を「水と油」なんて言いますが、
油絵の具と雨水の関係もそう。
キャンバスが雨に濡れれば濡れるほど、
絵の具がヘドロのようにただれ落ちていくのです。
次第に強くなっていく雨。真冬の雨は体温も奪っていきます。
それでもなんとか描けないものかともがいていると、ふと視界に友達が。
キリンの檻の前に座っている彼のキャンバスに描かれていたのは、
なんとサンバを踊る女性。しかも、三人。
その時、思ったものです。「私にこの世界は無理だ」
そんなこんなで、現在はコピーライターをしています、
TBWA\HAKUHODOの山口千乃です。
あの日、雨が降らなかったら
今頃「自称・画家」を名乗っていたのかもしれません。
4065 | 2016.04.22 | 雨と油絵とサンバ |