広告のない国へ。(キューバ旅行記1)
ガイドのユニエが「トモ。気づいてるかもしれないけど、この国には広告がないんだよ」と言った。夜の港町、シエンフエゴスの、カリブ海に面した大通りを歩いている僕たち6人組は、大盛りランチのせいで重くなったおなかがこなれるまで、ディナーの前に街の外れまで散歩していた。ここはキューバの中央部南岸、ハバナからは約250 km で人口は約15万人。シエンフエゴスは街の美しさから「南の真珠」の異名をとっている(wikipedia)。キューバ人の人種は様々だけど、ガイドのユニエは白人で、レイバンのサングラスをかけ、オハイオ州(OHIO STATE)と大きく書かれた真っ赤なトレーナーを着ている。移動するマイクロバスの中で日焼け止めを塗っていた彼の姿は、僕が旅の前に思い描いていた「キューバ人のガイド」とはかけ離れたイメージだった。もしかすると既にアメリカからも多くの観光客がやってきているのかもしれない。僕は「広告がないのは新鮮だし、落ち着いていていいね。でも、アメリカと国交を回復したから、変わるのかな?」と言うと、ユニエは「そうかもね」と表情を変えずに言った。彼が広告をどう思っているのかわからなかった。
前日の夜、一人で首都ハバナに着いた僕はそのままホテルに直行して眠り、あくる朝に、ホテルのロビーではじめて、一週間でキューバを周るマイクロバスツアーのメンバーとガイドと会った(そういうちょっと変わったツアーに申し込んだ)。イギリスからやってきた30代男性二人組スティーブとアンドリューは「IT関係」、30代女性のリズは「経済誌のライター」、そして南アフリカからきた50代女性マーリンは「CEOだったけど引退したわ」、そして日本から来た僕は「広告のライター」。みんな英語ネイティブ。雑談になると一層ついていけなくなったが、聞いているのは楽しかった。ユニエと僕が仲良くなれたのは、英語が母国語じゃない同士だったからかもしれない。
夜の街の広場には、人々が集まっていた。二〜三人でいるグループもいたが、一人で座っている人も多い。どの人もみんな、顔が、手に持っている灯りに照らされている。灯りの正体は、スマートフォンだった。「みんな、お金があったら、クルマとスマホを手にいれる。みんなシンプルに、生活を良くしたいんだ」とユニエは言った。60年代のアメリカ車が大事にされて走っている一方で、スマートフォンを手にいれたいとみんなが思っている国。行く前には想像していなかった。ちなみにネットを見るには、電話会社の店に行って、スクラッチカードを買ってけずって、書いてある番号をネットで入力すると、30分とか1時間ネットが出来るという仕組み。生活をよくするシンボルは、かつてはクルマ、今はスマホ。キューバも変わりつつあるのだ。
(写真は昼間のシエンフエゴス)
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