たかちゃん
石本、二日目、いきまーす。
よろしくおねがいします。
父、たかちゃん。
手前味噌ですが、
父は、いい男だと思います。
(あくまで主観です。)
やさしいし、かっこいいし、
まじめだけど、ほどよい遊びがある。
人懐っこくて、嫌みがない。
(めちゃほめてますね…。)
そして、なによりも、本気で母一筋の人。
怖いくらい。
私が小学5、6年生くらいまでは、
土曜日も午前中は学校がありました。
お弁当食べて、そろばん塾行ったあと、
父がときどき車で迎えに来てくれていました。
バス通学だったので、
父が休みのときは、という感じでした。
ある日、
車が、家とは違う方向に進んでいくんです。
どんどんどんどん街中へ。
車はパチンコ屋の立体駐車場に停まりました。
パチンコかい!
いいえ。父はおもむろに双眼鏡を取り出し、
向かい側のビルを偵察しはじめたんです。
眉毛が濃い父の横顔は、
まさにゴルゴ13でした。
このために、毎日、トイレで
ゴルゴを読んでいたのでしょうか…。
獲物は、もちろん、最愛の母。
パチンコ屋から見える建物は、
母の職場だったんです。
「何しょーん?はよー帰ろーやー。」
私と妹は、なんとなく
後ろめたいことをしている気がして、
ゴルゴを思いとどまらせようとしました。
すると、ゴルゴはなぜか半笑いで、
「お母さんが、浮気しとんじゃがー。」
と核心に。
真偽は定かでなくとも、
普通、子どもなら、きっと心をいためる言葉なはず。
なのに、ゴルゴが半笑いだったせいか、
なんだかワクワクしたのを覚えています。
開けちゃいけない扉を開く感じ。
(不謹慎ですみません。)
2回目以降は、
はいはい偵察行くんでしょ、とピクニック気分。
私と妹は、時間つぶしのマンガやお菓子を買ってもらい。
さらには、口止め料を1,000円ずつもらうという
インセンティブも。
口止め料は、もちろんゴルゴからの提案。
「絶対、お母さんには内緒でぇ。」
ゴルゴは悪い顔というより、やっぱり半笑いでした。
束縛されるのが大嫌いな母にバレたら、
大怒られするに決まっている。
利害だけではなく、リスクを共有する私たち3人は、
いいチームでした。
が、その絆に陰りが。
何の証拠もつかめない。
いつも何も起こらない。
ゴルゴの疑念は毎回空振りに終わりました。
そりゃそうですよ。
たとえ母が黒だとしていても、
職場を偵察する、では証拠もつかめないでしょう。
もう、つまらなくて、つまらなくて仕方がない。
あのワクワクは、どこへいってしまったのだろう。
(かなり不謹慎ですみません。)
このやるせない状況にピリオドをうつべく、
(子ども心に、母の浮気の真偽を知りたかったのかも)
妹といっしょに、母にチクりました。
もちろん母は大激怒。
ゴルゴはかなりの勢いでツメられてました。
ゴルゴは、チクった私と妹の方を見て、
なぜかまた半笑いでした。
「1,000円、やったのにぃ。」と
悔しがっていました。
母も、さんざん怒った後は、半笑いでした。
「お父さんには、ほんま、困るわぁ。
あんたら、なんとかしてぇ。」
とか言ってきて。
いやいや、何ともできませんから!!!
あなたたち、それ、ラブラブでしょー!!!
そういうプレイですかー???
私は学びました。
どんなドラマよりも、
現実がいちばんおもしろい。
人がいちばんおもしろい。
表面に見えていることなんか本当じゃない。
人も、世の中も、もっともっと複雑で、
一生かけても分かりっこない。
だから、
コピーライターを続けてこられたのだと思うし、
これからも続けていけるのだと思います。
いまの私は、あなたでできています。
ありがとう、お父さん。
エピローグ
結局、母が黒か白かは分かりませんでした。
でも、父の知らないいろんな情報を握っている
私と妹の答えは、一致しています…。
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