リレーコラムについて

無限ピンボール

秋田勇人

子供の頃、毎年ディズニーランドに行っていた。
父親が会社でもらってきたチケットを使い、
家族そろって出かけるのが恒例となっていたのだ。

当時小学生だった僕と3つ上の兄は、
毎年通っているうちに、ある穴場を見つけていた。
それは、ペニーアーケードという
アメリカのレトロなゲームセンターをイメージした場所。
棒をグリグリするサッカーゲームや、
占いをするからくり人形が置いてあるだけの、
休憩所のようなスポットだ。
楽しい乗り物だらけのディズニーランドで
そんな地味なスポットを僕らが気に入ったのはピンボール台のせいだった。

ペニーアーケードでは、ゲームセンターのように
一回ごとにマシンにお金を入れて遊ぶシステムになっている。
ところが、ピンボール台だけ壊れていて、
一ゲーム10円のはずが、10円を一度入れると無限にプレイできたのだ。
ディズニーランドまで来てピンボールをやる人が少ないからか、
そのバグは誰にも気付かれずに、何年も放置されていた。

完璧に設計された夢の国ディズニーランドに、
一点僕らだけしか知らないほころびがある。
世界の重大な機密を握ったような感覚がたまらなかった。
だから僕たちは毎年ディズニーランドに行くたびに、
まず入り口付近のペニーアーケードまでダッシュし、
10円でピンボールを何十回もプレイし、
今年もバグが直っていないことを確認したのだった。

しかし、終わりは唐突に訪れる。
いつものようにピンボールを楽しんでいたあるとき、
僕はつい、隣にいた男の子に教えてしまった。
「あのね、これ故障してて10円で何回でも遊べるんだよ!」
すると彼は、あろうことか
近くのキャストにそれをチクったのだった!
翌年にはピンボールは1回10円に修理されていた。
夢の国のほころびは、あっさりと縫い合わされた。

チクった子は、たぶん「いい子」だったのだろう。
だが、「世界の秘密にワクワクする感じ」を
見知らぬ子に共有してあげたかった
僕だってある種の「いい子」だったと思うんだけどなぁ…。

NO
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