家族と友人を大事にする
こんなよい月を一人で見て寝る
この頃はまだよかった。月の美しさに見とれる感受性と、その感動を誰かと共有したいと願う人間性を垣間見ることができる。何より、句としての完成度が高い。作者は尾崎放哉。種田山頭火と並ぶ自由律俳句の大家である。彼の名を知らない人も、次の句は知っているだろう。
咳をしても一人
尾崎の代表作だ。彼の抱える孤独が、先の句よりも浮き彫りになっている。背をさすってくれる者はおろか、心配してくれる者すらいない。家族も財産も失った男の孤独をたった七字で詠んだ傑作と言えよう。
しかし我々の賞賛を知る由もない尾崎は、さらに孤独の深淵へと潜り込んで行ってしまう。そうしてできた句がこれだ。
墓地からもどって来ても一人
増えていたら怪談である。百歩譲って「墓地に行っても一人」ならわかる。「咳をしても一人」と同じ構文だからだ。だがこれは違う。もはや尾崎は何に対しても「一人」とつけていた節がある。
孤独を突き詰めた俳人、尾崎放哉。死後なお、名作を詠み続けていることだろう。三途の川を渡っても一人。こんな怖い閻魔様を一人で見てひく。
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