ただしくん
ただしくんは帰って来ないと思っていた。
そして案の定、そのまま九州に残ることを選んだ。
ただしくんとは、中村直史くんのことで、会社の同期だ。
ただしくんが長崎五島出身で、ぼくは熊本出身。
どちらも地元が九州ということで、
たくさんいる同期のなかでも気が合う方だ。
ただしくんは、3年くらい前に自らの希望で電通九州に出向していった。
家族が五島にいるからだ。
そのとき本人は、
出向期間が終わったらまた東京に帰ってくると言っていたけど、
ぼくはもう戻って来ないだろうと思っていた。
家族から離れられないただしくんのことだ、
出向期間が終わったら電通九州に転籍するに違いないと。
そして昨年末、ただしくんは先輩と後輩とともに独立して、
福岡で新しい会社を立ち上げた。
予想とは少し違ったけれど、
ただしくんはぼくの思った通りの人生を歩き出したわけです。
その会社の名前は、BLUEとGREEN。
由来は、ただしくんからもらった最後の挨拶メールによると、
九州の海と山みたいに気持ちのいい仕事と、
気持のいい働き方を目指して、
「BLUEとGREEN」という社名にしました。
ということらしい。
この名前を聞いたときまず、
ぼくの頭に思い浮かんだのは、このセリフ。
「これ、いいコピーだけど、
どんな商品にも当てはまるよね。
この商品にしか言えない強い言葉がいいな」
コピーライターなら一度は言われたことがあると思う。
ただしくんだって言われことあるはずだし、
後輩にそう言ってダメ出ししたことだってあるはずです。
BLUEとGREENはいいネーミングかもしれないけど、
海と山がある場所の会社ならどこでも当てはまってしまう。
福岡のコピーライターの会社にしか言えない強みがないんですよねえ。
これが、合成用素材の撮影を専門とするプロ集団の会社なら分かるんです。
今日はブルーバックでタレント撮影! 明日はグリーンバックでシズル撮影!
だから、社名はBLUEとGREEN! これなら分かる。とても分かる。
でも、福岡のコピーライターの会社ですからねえ。
どこがどう福岡で、どこがどうコピーライターなんだろうと、
ぼくはついつい考えてしまうのです。
それと、と、ですよ。と。BLUEとGREENの、と。
ただしくんはきっと、このネーミングを思いついた瞬間、
「英語の間に平仮名をはさんだこの感じ、なんかクリエイティブ!」
と思ってやや興奮したに違いないんですよ。
「と」がいい!「と」が!「と」が!「と」がいい!と。
そんなに「と」がいいなら、「と」と不倫でもすればいいわけです。
「と」の一角目の先端でツンツンしてもらうときっと気持ちいいぞ。
二画目のカーブした丸い部分でなでてもらったら腰がくだけてしまうぞ。
たとえ奥さんにばれたとしても、相手が平仮名だったら、
怒る気もしないというか、きっと許してくれるよ。ただしくん。
ぼくは、この名前をただしくんが考えたという前提に立って、
書いていますが、もし社長の今永さんが考えたものだとしたら、
本当にすばらしい名前だと思います。
BLUEとGREEN。その名前の向こうに、九州の海と山が見えるようです。
とくに、「と」がとてもクリエイティブです。
栗田くんからバトンを受け取り、今週、リレーコラムを担当するのは、
電通の上田浩和です。よろしくおねがいします。
いやあ、自分で自分のことを言うのもなんですが、
ぼくって、ただしくんの悪口を言っているときがいちばん輝いていると思う。
鏡を見なくても、自分の目がきらきらしているのが分かります。
ぼくもずっと自分らしさというものを探していたのですが、
ようやく見つけることができた気がします。
そうかあ。こんなところにあったのかあ。
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