リレーコラムについて

ただしくん3

上田浩和

実は、ただしくんの送別会をまだやっていない。
送別会はいろんな人からやってもらっただろうけど、
クリエーティブの同期からはまだないんじゃないだろうか。
そして、それはけっこうショックなことだと思う。
これまでは同期が辞めるたびに開かれていたから、
ただしくんは、もちろん自分もと思っているに違いないのです。
実は行われていて、ぼくが呼ばれてないだけだったとしたら、
ぼくのほうがショックなんですが、そういうこともないんじゃないかな。
というのも、ただしくんが会社を辞めるっていうニュースは、
みんな直前に知ったし、
年末にさしかかった忙しい時期だったし、
そもそも福岡にいるただしくんを、
東京にいるぼくらがいったいどうやって送別すればいいのでしょう。
福岡と東京の間をとって三重でやるというわけにもいかない。
サミットじゃあるまいし。

ここで率先して、幹事をかって出て、
ただしくんに恩を売っておくという手もあるにはあります。
こういう恩は、高く買い取ってもらえますからね。
それは分かっているのだけど、面倒です。
30人位いるクリエーティブの同期全員にメールを出して、
予定を調整して、お店をとって、とかしないといけないのかと思うと、
面倒がぷーんと臭くて臭くて仕方ないのです。
ただしくんの送別会かあ、と思うたび、目の前に、
燃えるゴミの日のゴミ集積場が広がるのです。
ただしくんに東京に来る日はないかを聞いて、
その限定された日に、忙しい同期たちの予定を合わせるのはたいへんですよ。
なかなか舌の肥えてきた年代でもありますし店選びも一苦労です。
ああ、面倒臭い。とても面倒臭い。

ただ、送別会当日に渡すプレゼントはすでに決まっています。
テンガです。テンガ。もうこれでいいです。
同期ひとりずつから、一つずつテンガを渡してもらうのです。
海外に出向中のやつからも、
テンガ持って撮ってもらったメッセージビデオを送ってもらいます。
テンガの先端部分にはそれぞれの手書きのメッセージ入りです。
「がんばれよ」とか「いまが飛び出すときだ」とか「発車オーライ!」とか、
なかには「結果にコミットする。」とか書いてあるテンガもあるわけです。
結果にコミットする。テンガ
ん? なんか、これはこれで、成立していますね。
結果にコミットする。はいいコピーだけど、
前にも書いたように、実は、
「他の商品でも言えてしまう弱さ」を持っていたようです。
結果にコミットする。デラべっぴん
ほら、これもいけるし、
結果にコミットする。オレンジ通信
これだっていけます。なんなら、
結果にコミットする。漫画ローレンス
これもいけます。
でも、あんまりやると、本当に怒られてしまうので自主規制しておきましょう。
そんな思いのこもったテンガたちが、
多ければ十数本もただしくんの前にずらっと並ぶわけです。
感動したただしくんは涙を拭くために、
ポケットからティッシュを取り出すかもしれない。
そのとき誰かが「おい!ここではやめとけ!家に帰ったからにしろ!」
とつっこみを入れたりするわけです。
「いやいや、そんなつもりじゃないって」とただしくんが涙ながらに言えば、
その場はわっと盛り上がるなかなかの場面です。

いま、こうやって書いてみたら、
なんだかすでに送別会が行われた気がしてきました。
具体的に想像すると、
それがあたかも事実のように感じられてしまうことってありますよね。
それが、いま、ぼくのなかで起こっています。
同じことが、ただしくんのなかでも起これ!
そしたら、もう送別会を開かなくて済むから。
まあ、ひとつ心残りがあるとしたら、
ただしくんが、その席の最後の挨拶で、
どんなことをぼくらに話してくれたのかを聞けなかったということです。
それだけは、ぼくにも、同期の誰にも想像できないです。
ただしくんにしか分からない。
そういうわけで、来週は、ただしくん本人に、
このリレーコラムのバトンを渡そうと思います。
ただしくん、よろしくー。

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