リレーコラムについて

誰かのせいにしていた自分へ。

阿部広太郎

こんなはずじゃなかった。

ある時、そう思ったまま、
仕事がまったく手に付かなくなった。

携帯の通知は止まらない。激しく飛び交うメール。
クライアントの意見を反映した再プレゼンは、
イメージと違かったのか再々プレゼンになったそうだ。

週明けに改めて提案しなければならない。
当然、チームの雰囲気はにごっていく。どよんと淀む。
上司も苛立ちが滲むのか、言葉のとげを隠せなくなった。

広告を見てくれた人の心を動かそう。
同じ目的を共有しているはずなのに、
みんなの心は、とうにばらばらだった。

意気揚々と社会人になって、
配属されたのは会社の人事だった。
クリエーティブ試験を受けて、
コピーライターの肩書きを手にした。
寝食をわすれて仕事に打ち込んで、
東京コピーライターズクラブの新人賞をもらった。

「東京で、コピーライターとして、がんばれ」

そう背中を押してもらえたような気がして、
可能性をたくさん感じてこの仕事してるはずなのに、
どうしてこんなことになってんだよ、と思った。

こんな風に思ってなかったか?

目の前の仕事が当たりだとかはずれだとか、
はずれの場合は、自分を押し殺し、過ぎ去るのを耐える。
この仕事は賞を獲れるとか、獲れないとか言って、
傾向と対策であたまの中をいっぱいにする。

会社にやまほどいる、コピーライターの中から、
広告賞を獲って、すこしだけ目立って、
いつの日か大御所と呼ばれる方たちに見つけられて、
大企業の大ブランドのどデカい仕事に関われたらと願い、
壮大な順番待ちに並んで、いつか、いつか、いつか、
自分は何者かになれるはずだと漠然と思う。

そう思いながらSNSで日々流れてくる、
誰かの受賞の報告に心をさいて、
誰かと比較して勝手に傷ついて、
あいつはいい環境にいるからだとか、
あいつはいいチームにいるからだとか、
どうにもならない愚痴を溜め込んでいく。

なにをしてるんだろう、自分は。

仕事は、そんなもんじゃない。
人生を、そんなもんにしちゃいけない。

会社のデスクにかじりついて、
考えているのが仕事ではない。
会いたい人がいるなら今すぐ会いにいけばいい。
いま会えないなら、会える自分になればいい。
納得いかないことがあるなら、
どういうことですか、
なんでそうなるんですかと、
今すぐ話をしに出掛ければいい。

くだらないプライドなんかかなぐり捨てて、
心の叫びに従ってまっすぐな気持ちで仕事をする。

この地球上で最初に仕事をした人も、
自分のできることを目の前の人に贈って、
喜んでもらうことからはじめたはずだ。

心の奥の、脈打つ当たりから、
自分自身に言われている気がした。

今うまくいかないことを、誰かのせいにするな。
仕事がつまらないのは、お前がつまらないからだ。
何者にもなれないのは、お前が何もしてないからだ。

変わりたい。

コピーの書き方を身につけて、
なにかいいことがないかと、
受け身でいる自分を。

なんのために働いてるんだろう?
なんのためにコピーを書いてるんだろう?

自分の生き方を真剣に考えたのは、
今から5年前。
2012年、僕が26歳の時だった。

(つづく)

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