セルフィー忖度
「最近セルフィー嫌いになった」
仲の良い女友達がぽつりとつぶやいた。
女子からみても可愛らしいその子は、
よく友達とのセルフィー写真をSNSにアップしていたのだが、
確かに近頃はごはんや風景の写真ばかりだった。
「なんで?」
「一緒に写っている子の写真写りを考えはじめたら面倒で…」
そう、ソーシャル時代は、すべての写真がお見合い写真。
いま女子にとって写真写りとは非常にセンシティブな問題だ。
自分のほうが可愛く写っているものを選べば、
友人関係は一貫の終わり。
かといって、自分の写りが悪いのも嫌だ。
ならば許可を取ればよいか?
相手が「いいよ」と答えたとしても油断はできない。
写りが悪いからヤダ、なんてモデル気取りは恥ずかしくて断りづらいからだ。
悩んだ結果、丸顔の私の輪郭を
わざわざ少し細めに修正してから送ってくれる友人までいる。
(ありがたいが、背景がゆがんでバレるから更に恥ずかしい)
決して直球では話さない。
察しろ。思いやれ。空気読め。
そんな無言の 圧が、女子のセルフィーには隠れている。
この感覚、なんだっけ。
あ、あれだ!
「忖度(そん-たく)」だ。
今年のはじめに世の中を騒がせた事件で
突然スポットライトを浴びた言葉である。
(恥ずかしながら、私はこの言葉を知らなかった)
辞書によれば「他人の心をおしはかること」。
英語では最初「surmise」と訳されたが、
のちに該当する言葉は英語にはない、という結論になったそう。
そう、単なる「推察」ではないのだ。
あの人はこう思っているのでは、、
と推し量って、空気を読んで、それに合わせて行動する。
思えばそんな忖度シーンを、
私たちはよく目にしていることに気づく。
「あのCDならこのコピーは嫌いそうだからやめておこう」
あ、忖度だ。
「この写真だと顔が丸くて嫌がるだろうから、ちょっと顎を削っておこう… 」
これも忖度。
官僚の世界だけじゃない。
自分も、周りの人も、どれほど忖度していることか。
この言葉のおかげでありありと見えてくる。
ぼんやりと、でも確かに感じていた、セルフィー女子の疲弊感に
「忖度」という言葉がぴったりとはまって、
その輪郭がはっきりと見えた気がした。
ー言葉をつくることは、顕在化すること。
そんなコピーライターになりたての時に教わったことを、
いま、改めて感じている。
*
初回から長くなってしまいました。
TBWAHAKUHODOの桃井と申します。
同じ会社の原田さんからバトンを受け継ぎました。
1週間よろしくお願いいたします。
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