リレーコラムについて

サハラ砂漠のまんなかで⑤

大石将平

サハラ砂漠のまんなかで、
死ぬかと思ったときのおはなしです。

それは、明け方に近い時間帯のこと。

砂漠は、いままで生きてきた中で、
いちばん綺麗な星空を見られる場所でした。
いろんな場所で星空を見ては、美しいと思いましたが、
そのどんな星空をも超えていました。

「満天の星空」という言葉が、よく似合う空でした。

そんな星空をみながら横になっているうちに、
いつしか眠り込んでしまいました。

すこし時間が経って目が覚めても、
そこには、変わらずに美しい空があって、
改めて自分がいま砂漠のまんなかにいることを
教えてくれていました。

「すこし、歩いてみよう。」

理由はよく覚えていないけど、
そこで寝転がっているだけでは
もったいないと思ったのでしょう。

砂漠の夜にも慣れ、
好奇心が恐怖心を勝ったのだと思います。

砂漠は無音の世界でした。
空間はどこまでも広がっているのに、
物音ひとつなく、自分の心臓の音しか聞こえません。

どこまで歩いても見渡す限りの砂漠。
歩いては、息を切らして座り込み、また歩き出す。
どんなにあがいても、自分ひとりでは
この砂漠から出られないことを思い知らされます。

いちばん高い砂丘を登ろうと思いました。
砂漠へのせめてもの抵抗でした。

いま思えば、その無計画さが悔やまれます。

歩けども、歩けども、一向に近くならない砂山。
風景の中に大きさを認識できるものがなかったせいで、
遠近感がかなり狂っていたのです。

歩いては、座り込み、また歩いては、座り込む。

そんなことを繰り返しているうちに、
ようやくその砂山の麓までたどり着きました。

そして、今度は、その高さと角度を見誤ります。
2〜3m登るだけで息が上がるほどの高さと急斜面。
すこし登っては、倒れこみ、また登る、ということを繰り返す。

結構登った気で顔を上げると、
頂上はあいかわらず遠くにありました。

もうダメだと思い仰向けになって寝転んだとき、
たいへんなことに気がつきました。

「あれ、帰る道がわからない…」

ベースキャンプは砂漠のくぼみにあったため、
高いところに登っても見えなかったのです。

これまで苦労して登った砂山を転がるように降りていきます。

気づけば、太陽が昇ってきている。

このままベースキャンプが見つからなければ、
自分はどうなってしまうのだろう…。
最悪のケースが頭に思い浮かび、
よりいっそう心臓が早まっていきます。

もっと急がなければいけないのに、
心臓がなんども悲鳴をあげて座り込んでしまいます。

そんなことを繰り返しているうちに、
見覚えがあるような、ないような、
砂丘の景色にたどり着きます。

でも、ベースキャンプは見つからない。

「おーーーーーーい!」

本気のSOSを求めたのは人生で初めてでした。
すると、思ったより近くから人間の声が返ってきました。

そこには、朝日を見に起きてきたツアー仲間がいました。
こうして、なんとかこちらの世界に戻ってこれました。

あとにもさきにも「死」を
あれほど強く意識したことはありません。

ちなみに、そのあとにみた砂漠の朝日は、
いまでも忘れられないくらい美しかったです。

人生に迷ったときは、ぜひサハラ砂漠に行ってみてください。
いかに自分がちいさな存在か分かりますよ。

これにて、私のコラムは終了です!

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
今日からは、TCC同期の押部さんにバトンタッチです!

>押部さん
よろしくお願いします!

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