美しい伝統
片道5キロ。
家から高校までは、自転車だった。
日本でも有数の厳格な校風のわが校は、手袋が禁止だった。
代わりに軍手は許されていた。
「寒ければ2枚重ねにすればいい。」
それがわが校の伝統らしい。
伝統は流行には乗らない。
コートは許されていた。
「体調が悪ければ着てもいい。ただし、わが校で着ている人を見たことはない。」
伝統は身勝手だ。
冬の制服の下は、できる限りの厚着をした。
実家は山の上にあって、バス停まで徒歩15分ほどかかった。
だから雨の日はレインコートを着て自転車で通った。
「制服はホックを留め、カラーを付けること。制帽は着用のこと。」
レインコートだが、制帽はかぶって通った。
守らなければ、通学路に潜んでいる先生に呼び止められ、一発げんこつを食らう。
手袋は没収され、戻ってこない。
伝統はエコじゃない。
山の上に住んでいるので、帰りは10分間、下ることなく坂が続く。
小さな頃から、その坂道を一度も足を着かずに登り切ることを自分の使命と感じていた私は、足腰が丈夫になった。
高校生になっても、同じだった。
だから、できるだけ荷物は軽くしたい。
「荷物はすべて持ち帰ること。教科書や辞書を置いて帰って、自宅で勉強できるのか?」
ごもっとも。
ただし、部活を終えて帰宅する22時に、辞書をすべて抱えて上り坂を登り切る自転車は、高校生であっても体力を奪った。
帰宅すれば、すぐに眠った。
開かない辞書は石と同じだった。
こっそりと辞書を置いて帰ってみた。
翌朝、辞書で殴られた。
伝統は痛い。
赤点を取ってもげんこつを食らう。
取る方が悪いのだ。
成績は叩かれても上がらない。
体育の日は風呂敷に包んで体育着を持って行くのも、また伝統だ。
「着替えは体育館横で(男子は)行い、2度固結びをして、風呂敷から着替えた制服がはみ出さないこと。」
1人でもはみ出していた場合、どうなるか。
その日のリーダーが一発叩かれ、共同責任として全員がグラウンドを3周走らされる。
伝統は体力がつく。
点呼は、4列か5列横隊(だったと思う)で並び、リーダーが「番号!」と叫ぶと、瞬時に「1、2、3、4、・・・10!」と列の先頭が叫び、横を向く。
「欠席〇名、遅刻〇名、早退〇名、総勢〇〇名!」
体育教師の確認後、リーダーの点呼が間違っていれば、再びリーダーは一発叩かれ、全員がグランウンドを走る。
伝統は規則正しい。
在学時、この高校を愛したことは一度もなかった。
暗黒の3年がすぎ、その間、部活を辞めても勉強はそこそこで、結局ハタチまで実家で過ごした。
わが伝統校は、鬼十則を生んだ吉田秀雄さんの出身校だ。
母校からの影響のほどは、知るよしもない。
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