独立顛末記その四<蒼天篇>
年が明けて2017年になると同時に会社員でなくなった。
オフィスは貸主との交渉が継続中で、未だ入居の目処は立っていなかった。
それでも、幸いなことに仕事はある。
仕事始めを1月5日に決めて、静かに始動した。
スターバックスのテーブルにMacBook Airを置いて、
グッドデザインカンパニーから新規に依頼された
あるブランドのステートメントを書き始める。
キーボードを叩きながら思う。
所属する会社はない。オフィスもない。
でも、この清々しさはなんだろう。
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法務局に提出する書類の作成や銀行口座の開設などと並んで
会社設立のためにやらなければならないことがある。
商号の登記である。
ひと月ほど考えて、会社の名前を「writing style」に決めた。
writing styleとは「文体」を意味する言葉であるが、
それにはとくべつな思い入れがある。
フランス人作家レーモン・クノーが書いた『文体練習』という書物がある。
20代の半ばで初めて読んで以来、
つねに僕にとってのバイブルであり続けている本だが、
その原題が「Exercices de style」である。
レーモン・クノーのクリエイティビティにあやかり、
書名の一部をいただくことにした。
のちに商号の登記の際、同名の会社があるかを調べたところ、
日本には存在しないことがわかった。
ネーミングを担当したコピーライターとしては
他社との差別化という意味でもうれしかった。
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その後、writing styleの社名は水野学君の手によって、
素晴らしく端正なロゴになった。
3月、ロゴが美しくレイアウトされた名刺が完成した。
自分の会社の設立をもっとも実感したのは、
オフィスが開設した時でもなく、登記が完了した時でもなく、
完成した名刺を初めて手にした時だった。
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